貴方の傍に-9-【銀魂】

429 ページ29

たった一撃だった。
さっきまで互角のような闘いはたった一撃によって全て変わった。

神楽は何度も咳き込んでいる。
立つことが出来ないほどの痛み。

「腕力より脚力の方が遥かに強いからな。え？詐欺だって？堅いこと言うなよ。クイズだろ」

阿伏兎は倒れている神楽に近づき、右腕を足で踏み簡単に折ってしまった。
同時に神楽の叫び声が喜杏の耳に届く。

俯いていた視界は握りしめた左手。
強く、汗が滲む位、握りしめていたらしい。

「気付かんかね。お前さん無意識のうちに拳に急ブレーキがかかっていることに」

神楽は夜兎の血を、戦う本能を抑えようとするあまり、拳が阿伏兎に届く前に死んでしまっていたのだ。
並の敵であれば、その拳で十分だろう。
しかし、目の前に聳え立つ敵は分厚く、険しい壁。そんな甘い考えで、幾つもの戦場を超えた男に適う筈ない。

阿伏兎は神楽の顔を踏みつけた。
利き手を折られてしまい、左手でなんとか抵抗している神楽。

ここで見ているだけか。ここで恐怖にひれ伏すだけか。
違う。違う。

踏みつけられている神楽を見て、震えは消えた。

息を殺せ。殺気も全て。

倒せないことも分かっている。自分が弱いことも。



それでも今できることは。

ずっと隠し持ち、今まで使う必要のなかった小型の爆弾のスイッチを入れた。
背中の懐刀を口に咥えた。右手に感じる薙刀の重みももう慣れた。

ぐぐ、と踏みつけている足を神楽は必死に止める。

「お前さんとはハナから勝負に……っ!!!」

阿伏兎の視界に異物が写る。その異物は小さな爆発を起こした。殺傷能力は低い。

だから踏みつけている小娘に影響はない。これは俺の視界を塞ぐだけ。
その爆炎の中から飛んできた薙刀。番傘で弾いた。

小娘を助けるために、俺の気を逸らすつもりか。
薙刀を持っていたのは、餓鬼と眼鏡。
一直線に飛んできたということは眼鏡か。いや。

「火事場の馬鹿力って奴か、糞餓鬼!!!」

殺気を感じさせずに近づいてきた喜杏。
口に咥えられていた懐刀はすぐさま右手で持ち替えていた。

少しでいい。ほんの少しでいいんだっ……！

薙刀を弾いてくれたおかげで次に使われるのは左手か、足。

左手は喜杏の場所からは態勢が悪い。足であれば、神楽が解放される。



懐刀を阿伏兎の腹に目掛けて降ろした。

430→←428

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す