馬鹿兄貴414 ページ14
月詠は静かな声で晴太の名を呼んだ。
「ぬしはその日輪が命を賭して護ろうとした存在じゃ」
そう、吉原で子を産めば、その母も子供も始末される。しかし、晴太は生きている。
八年前、日輪は晴太を抱えて吉原から逃げ出したのだ。地の果てまで追いかけられると知りながらも、晴太を地上に連れ出した。
久々に見た外の景色は重く暗い雲が空を被さり、誰かの代わりに泣いているような雨が降る日だった。
長く続くはずがない逃亡劇。
日輪はすぐに鳳仙の追っ手に捕まり、殺されるのを覚悟した。
いや、覚悟は幼い晴太を抱いた日から出来ていた。
鳳仙に顔を掴まれても、人一人視線だけで殺しそうな目で見られても。
圧倒的な強者を前にしても消えない灯。
鳳仙は日輪をすぐに殺さなかった。
死より地獄のような苦しみを彼女に与えた。日の光を拝むことなく、死ぬまで鳥籠で商品として生かすのだ。
日輪に逃げ道はなかった。
死ねば晴太を預けたお爺さん諸共殺される。
自分が吉原と言う鳥籠にさえ戻り、一生あの場所にいれば晴太の身の安全は保障されるのだ。
日輪は大人しく立ち上がり、鳳仙と共に歩き出した。
自然と頬を零れる涙は雨と共に流れていく。
だからこそ、月詠は晴太を死なすわけにはいかなかった。
「帰れ晴太。
わっちらにとって日輪が太陽だったように、日輪にとってぬしも特別な存在なのじゃ」
日輪の行動があってこそ、今晴太が生きている証拠であった。
つまり、晴太と日輪を会わすということは日輪の屈指の決意を、辛苦な思いを全て水の泡にしてしまう。
鳳仙に気付かれる前に帰るのが得策であり、晴太も気付いていた。
喜杏は歯を食いしばった。悔しがるのもお門違いと分かりながら。
会うだけなのに。
会うだけなのに、どうして障壁だらけなのだ。
折角手を伸ばせて届く範囲にいるのに。
しょうもない妬みを抱いていた自分にも殴りたくなる。
握りしめている手はじんわりと汗をかいていた。
「おい」
銀時の声に喜杏達は顔を上げた。
「どうやら過分な心遣い痛み入るがね、どうやら」
喜杏達と同様にパイプの上に、黒い羽織をはためかせ、雨も降っていないのに番傘を指す男が一人立っていた。
「もう手遅れらしい」
「「っ!!!」」
傘の下で不敵な笑みが浮かぶ。
この暗い中でも分かるほどの白い肌、番傘。
まさしく“夜兎”の姿だった。
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月見ソウ(プロフ) - 萩月さん» 萩月さん、コメントありがとうございます!遅れてしまってすみません。一気に読んでくださったこと、可愛いと感じてもらえてとても嬉しいです。これからもよろしくお願いします。 (1月13日 6時) (レス) id: 5772551842 (このIDを非表示/違反報告)
萩月(プロフ) - 面白くて一気に読んじゃいました、不器用ながらも喜杏ちゃんを可愛がる銀さんや甘えたな年頃の喜杏ちゃん等、ニヤケが止まりません!続きを楽しみにしてます。年明け早々色々ありましたが作者さんも無理せず頑張ってください、これからも応援しております。 (1月3日 15時) (レス) id: 18ce4c7edf (このIDを非表示/違反報告)
月見ソウ(プロフ) - 蛙好きさん» 蛙好きさん、コメントありがとうございます!一気に見てくれたんですか!?嬉しいです、ありがとうございます。一月下旬当たりにここに戻りたいと思ってるので、申し訳ないですがもう少しお待ちください。これからもよろしくお願いします。 (12月26日 16時) (レス) id: 5772551842 (このIDを非表示/違反報告)
蛙好き(プロフ) - 夜中一気に見ちゃいました、続き楽しみにしています (12月23日 2時) (レス) @page46 id: 7bb3646af7 (このIDを非表示/違反報告)
月見ソウ(プロフ) - 甚嘉さん» 甚嘉さん、コメントありがとうございます!成長は特に意識して買いてるので感じてもらえて凄く嬉しいです。少し更新速度落ちてますが、頑張ります!よろしくおねがいします。 (9月25日 23時) (レス) id: 5772551842 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:月見ソウ | 作成日時:2023年9月4日 0時