暗闇,030 ページ31
〈翌日〉
「うぅむ、ぬぅ〜……?」
「ぎょっ……⁉」
誰もが羨むシチュエーションだこれは。
「ぬぅ〜ってなんじゃ、ぬぅ〜って」と呆れながら零は言うけれど、顔はドロドロに甘い。甘さのテンプレをなぞった、言うなればフルーツパフェ。まさか、こんな至近距離で夜を過ごすことになろうとは。甘い、胃もたれしそうだ。
そうと決まれば、今から薬局でヘパ*ーゼを買ってこよう。
「……会長さま、」
「ん?なんじゃ、珍しく真剣な顔をしおって___」
「えいっ♪」
「うぐっ!!!」
ぶごごご、と人が海で溺れ死ぬような効果音が聞こえる。流石に、きつい。おじいちゃんなのだから、いつ死んでもおかしくないのに。お正月の雑煮でさえ喉を詰まらせるほどなのに。
ーーー本物の、一歩手前ではないか。
「ケーキ?一体どこから。我輩の〜……ではないか、我輩生ハムしか持ってないし」
「わたしのです。それ『フィナンシェ』っていうらしいんです、すむ地域によっては『ヌガー』ともいうらしいですね」
「あっ、そうなんじゃな……」
遠い目をしてそう告げる。違う、違うんだ彼女。今聞きたいのはそうじゃなくて、なんでこんなブランドものを彼女が持っていて、零に食べさせたのか。言うなれば、そこなんだよ。
「あ〜これは、いえの者がくれるんです。奏汰くんのすむ集落にもあるように……って」
「ーーーいいえ、彼とわたしでは根本的に違うのです。彼はわたしよりも辛い『じょうきょう』にあるのです。彼とわたしは違う。わたしは……まだ、」
空気が凍りついたように冷える。零は鋭い眼つきで、彼女を睨みつけたのだ。分かるけれど。彼が『しゃかりき』になって、誰も近付かない火山を着火しにいくのは。
ーーー全部、ある一人のためだから。
「うん、美味い。」
「なぁA。こんなもんが毎日食えるっていうんだから、お前は十分愛されてるよ。心配すんな。それに実際、俺もお前を愛してるぜ〜♪」
「むぎゅ〜…。わかりましたけど、せまいんだから暴れちゃ『めっ』ですよ?」
少しムッとする。魔王にここまで言えるのは、将来的に有望だ。心に強い芯が芽生える。幸せの萌芽だ。この芽を絶やさずに、夜闇で長く綺麗に咲かせるには、どうすればいいんだろう?
「わたし、会長さまには『ながいき』してほしいんです、できるだけ長く。わたしのそばにいてくださいね」
「あぁ、わかってるつもりだよ。」
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日向サク(プロフ) - ありがとう〜 (2017年12月14日 18時) (レス) id: 7c85688fc0 (このIDを非表示/違反報告)
しょーり - サイコー!! 大好き!! キュンキュン!! (2017年12月14日 18時) (レス) id: d8a6f4a6f4 (このIDを非表示/違反報告)
亜純(プロフ) - とってもいいです!!最高です!!応援しています!更新頑張って下さい! (2017年10月17日 1時) (レス) id: f65f9d6e58 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:日向サク | 作成日時:2017年9月16日 10時