あ、シンメトリー【第ニ楽章】 (ページ3)

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四十三小節目ページ3

「おはよ……」
「うわ、顔ひっど」
「うるさい」

ちゃっちゃと食べなさいよ、と置かれた目玉焼きの真ん中に箸を刺す。プツと音を立てて流れてきた黄色が、今日はやけに眩しかった。

我が家の朝ごはんは必ず、ご飯に味噌汁と決まっている。亡くなったじいちゃんの、願掛けだったそうだ。額の中の大きなトロフィーを持った笑顔は、詩にそっくりだった。

「……あれ、詩は？」
「朝練。今日は、音乃が防音室って言ってたわよ」
「え……？」

そんなこと、聞いていない。第一、今はお父さんが出張中で私たち以外に部屋を使う人はいないのだ。お母さんは、そんなことにも気付いていないのだろうか。

朝早くに詩が出掛けた理由を考えるなんて、その名の通り朝飯前だ。……私と顔を合わせたくなかったからに違いない。キツく言いすぎただろうか、でも、あれくらい言わないと鈍い詩が気付くわけがない。

考え事をしていても、ご飯を口に運ぶ手は止まらない。あっという間に茶碗を空にすると、お母さんがすぐさま2杯目のご飯をよそった。

「今日は応援なんでしょ。ちゃんと食べなさい」
「え……でも、多くない？」

仮にも年頃の女の子だ。ダイエットとまではいかなくても、一応食べる量には気を使う。お味噌汁も追加しようとしているお母さんを慌てて止めた。

「あら、詩乃は2杯食べたわよ？」
「は、！？詩が！？」
「エネルギーが必要なんですって」

にこにこーっと笑うと、既にお玉に入っていたらしいお味噌汁を、なみなみと私の器に流し込む。茶色のお味噌の中に、白い豆腐が浮かんでいた。

自分の分をよそったお母さんが、席について両手を合わせる。時計の針は、出かける時刻の10分前になろうとしていた。

まぁ、なんだかんだ言って2杯くらいは余裕で平らげる。私は、真っ白な豆腐を中から掬い上げ、ご飯と一緒に流し込んだ。