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●第卅捌話 ページ40

「……何か、飲み物をいただけませんか」



そのAの言葉に俺は慌てて立ち上がる



「あ、あぁ……スポーツドリンクで良いか」



「はい、ありがとうございます」



俺は寝室から出て、冷蔵庫を開ける



冷たい風が俺の火照った頬を冷やした



コップにスポーツドリンクを注いだ後、俺はコップを持って寝室に帰る



寝室に帰るとAが少し不安げな表情で天井を見つめており、こちらに気づいて安堵したような表情になった



……可愛すぎかよ



俺は緩んだ頬を隠すようにニヤリと笑った



「寂しかったのか?」



Aはなっ…と呟いて口を開けたり閉じたりしていたが、ふいっと目を逸らし



「悪いですか。全部風邪のせいですから」



と不貞腐れた



Aは一見捻くれている様に見えるが俺と比べればよほど素直だと思う



遠回しに表現することは多いが、俺と違って自分の思っていない様な言葉は決して口にしない



「ん、飲めるか」



俺がコップを差し出すとAはそれを受け取ったが、手が震えている



俺はその小さい両手に自分の手を添えた



Aは驚いてこちらを見たが、ありがとうございますと微笑んでコップの縁に口を付けた



コップの中の液体が半分ぐらいになるとAは口を離した



「ありがとうございます。残りは置いておいてください」



俺はそのコップをベッドサイドに置き、Aの肩を軽く押した



Aはポスっとベッドに倒れる



「もう寝て、さっさと治せ。いつまでも此処にいられちゃ迷惑だ」



俺はそう言ってAの頭に手を置いた



Aは俺の目を真っ直ぐに見据え、ニヤッと笑った



「そう言いつつ看病してくれる中也さん、結構好きですよ」



その時の俺の顔は今までで一番赤かっただろう



「おい、それどう言う……」



俺は尋ねかけたが、目を閉じて寝息を立てているAをみてため息をついた



俺の気も知らずにこう易々と…



俺はAの顔にかかった前髪を払い、ゆっくりと顔を近づけた



そしてその閉じられた瞼にそっとキスを落とした



素直になれなくてごめんな



お前みたいに素直になれたら、絶対にこの気持ちを伝えるから



それまで、どうか待っていてくれ



俺は寝室の扉をそっと閉じた



瞼へのキス___________意味は《憧憬》

○第卅玖話→←●第卅漆話


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作者名:信乃☆ | 作成日時:2016年12月9日 23時

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