霊感系女子と双つの黒【双黒】 (ページ36)

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○第卅詩話ページ36

「……何で、殺さない」

私は私を眺め続けるだけの殺し屋の男に尋ねる

殺し屋は標的を殺し、その報酬として金をもらうビジネス

そう思っていたのだが

「殺し屋でもね、人間なんだ。情がないわけじゃない」

殺し屋の男はそうニコニコと笑った

「では、私を逃がす…と」

私が驚いて殺し屋の男を見ると殺し屋の男は指を振った

「勘違いさせてしまったのなら謝ろう。情、というのは同情の情ではなく…情欲の情さ」

嫌な予感がする

頭が最大級の警報を鳴らす

私は顔を真っ青にして縄を解こうとした

だが硬く縛られた縄はビクともしない

「そう暴れることはないさ…大丈夫、痛くないからね」

殺し屋の男は一歩、また一歩と私に近づいてくる

いやらしい指が膝の内側に当てられ、其の儘太腿を撫で回す

ゾッとして私は身を縮こまらせた

吐き気がする

「怖がらなくて良い。素直に感じれば、すぐに気持ちよくなる」

男はニヤッと笑って私の服にナイフを当てた

襟首からゆっくりと服が割かれて行く

「やめろ…！」

私は身を思い切り捻って手を振り払う

鎖骨あたりが切れた

「ふむ」

男は驚いたように呟く

「強気な子は嫌いじゃないよ？けどね…反抗する子には、大人しくなってもらわないと」

男はそう言って私の顎を乱暴に掴んだ

「ファーストキスは、済ませてあるかい？」

「離せ…この、変態が…！」

私は必死に逃れようとしたが、手足はおろか顔さえ動かない

ファーストキスがこの気持ちの悪い男などあり得ないし許せない

だが私の気持ちなど関係なく、男が顔を近づけてくる

私を最大限の憎悪を込めた目で男を睨み、ありったけの殺気を出した

すると男は私の唇に触れる寸前で顔を止め、苦笑した

「殺し屋の私でも少し寒気がするほどの殺気だ。そんな顔をしないでくれよ。萎えるじゃないか」

「それが、狙い…だっての…」

私は顔を少しでも遠ざけようと身体を仰け反らせた

「…まぁいいよ？そんな顔も唆られる」

怖い

誰か、助けて

私は目を強く瞑った

その瞬間聞こえてきたのは___________

「「A！！」」

あの、心の何処かで待ち望んでいた二人の声

「中也さん、太宰さん……！」

私は砂煙の中から出てくる二人を見ようと目を薄っすらと開けた