Tomorrow's Moon will be Beautiful 【中原中也】

◆３ｂｉｔ ページ5

「それじゃあ今日はこの三件頼めるか」



「了解しました」



俺はオフィスを一通り案内したが、Aはあれ以来クスリとも笑わなかった



それどころか全く表情が変わらなかった



少し気になった俺はパソコンを起動するAに言う



「お前笑ったら良い顔してんだから、もっと笑えばどうだ」



Aは振り返って



「私、今笑ってませんか？」



と首を傾げた



どこからどう見ても真顔だ



俺が首を横に振るとAは手を頬にあてがっておかしいな…と呟いた



その仕草に思わず笑ってしまう



するとAはじっとこちらを見つめた



「あぁ、悪い。お前は気にしてんだよな」



俺が慌てて真顔を取り繕うと今度はAがクスッと笑った



「…お前今笑えてるじゃねぇか」



Aはそう言った瞬間バッとパソコンのスクリーンを見た



俺はそれを後ろから覗き込む



読み込み中と書かれた画面には見事に真顔なAが映っていた



Aは残念そうにため息をつく



「…昔から苦手なんですよ。感情表現」



そして書類をパラパラとめくり始めた



その顔は相変わらず真顔だったが、その目には心なしか残念そうな色が映って居た



「…ま、無理する事はねぇよ。いつか出来るようになる」



俺はAの頭に手を乗せた



するとサラサラの黒髪が手の中で滑らかに滑った



ふわっとAの香りがする



それだけで胸が高鳴った



Aは驚いたように目を見張った後ふいっと顔を背けた



その頬が少し赤くなっていたのは俺の都合のいい勘違いだろうか



「それでは終わったら届けに行きます」



無口なAはそれだけ言って口を閉ざしてしまった



俺は頷いてAに背を向けた



最近マンネリ化してきていた仕事が楽しみになり、白黒に見えていた世界が色鮮やかに染まった気がした









約二時間後、控えめなノック音がした



「入れ」



礼をしながら入ってきたのはAだった



その姿を見た途端に心臓が逸りだす



「仕事終わりました」



「お、おう」



俺は渡された書類を見て驚いた



こんな短時間で集めたとは思えないほどの情報量だ



「…凄いな。今日はもう上がっていいぞ」



俺がそう言うとAはペコリと一礼して出て行った



Aが出て行くと寂しさのような感情が俺を襲う



…引き止めればよかったと後悔したが、Aはもう机の上の書類を片付けて居た

◆４ｂｉｔ→←◇２ｂｉｔ

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