１４３話 ページ47
？？視点
俺が生まれたのは、
彼女のほんの一欠片に過ぎない俺が生まれてしまったのは、主の限界が迫っていたからだ。
「ごめんなさいね…。私は貴方を育てられなかったの。」
こんな風に、主はいつも謝っていた。
俺はなぜ謝っているのかわからなかった。
後から”本体“が生まれて、俺が消えれば良い話だ。
理解していた。容認もしていた。
けれど…主は俺が思っていたよりも深刻な状態だった。
“本体”を完全な形で生むことが出来なかった。
主自らのエネルギーを補充するための、道具として生まれてしまった。
「…主」
主はもう何も喋らない。
物言わぬ桜の木に成り果てたのだ。
俺は”本体“に少しだけ細工した。
だか、今の”本体“に戻って何になる？
あの“本体”に待っているのは破滅だけだというのに。
そのとき俺は、果たさなければいけない使命を放棄した。
いつの間にか四人の従者が出来て、彼女に笑顔が増えてきた。
あぁ、面白くない。
どうせ消える運命だというのに、なんとも滑稽な話だ。
彼女の命を永らえたのは他でもない俺だというのに。
あの四人の従者、見たところただの人間だ。
彼女はもうすぐ消える、そのとき彼らはどう思うのだろう。
…対して面白くない。
ならばその逆はどうだろう。
彼らが消えれば…彼女はどう思う。
好奇心を抑えられなかった。
彼女にとっても悪い話ではないはずだ。
主の枷から解放されるのだから。
「俺は
四人分の生贄を捧げれば彼女は解放される。
それは間違っていなかった。
彼女はもう自由に歩ける。
それでも俺は彼女への細工は解かなかった。
だというのに。
彼女は自分の意志で目を開けた。
目を開けられないよう細工していたのに。
そのとき俺は実感した。
俺は…彼女の一部でしかないことを。
それからはもう、思い出したくもない。
森奥に封じられて、暗闇の中で幾千年を過ごした。
あぁ…そういえばあの日“試しに”呪ってみたあの男は生きてるだろうか。
彼女と親しい関係にあるらしいので嫌がらせをしてみたのだが。
…彼女ならなんとかしたんだろう。
「……し…」
声が聞こえた気がした。
「死季」
…気の所為じゃなかったのか。
「…初季か」
そう返すと、初季はふっと微笑んだ。
「…疲れた、お前の中で眠らせてくれ。」
「うん…おやすみ、死季」
続く (更新停止中)
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作者名：まき | 作成日時：2022年9月22日 22時
