１２１話 ページ25
「…で、本当に退学になったの？」
『うん。残念ながらね。』
Aさんと下校をしている途中、僕は口を開いた。
「Aさんは悪くないのに。」
何も出来なかった俺が言う資格なんてないけど。
『…うん。仕方ないよ。』
あ、いつもの目だ。
そっか。わかった。
いつも彼女の目には覇気が無かった。
それは…。
諦めてるから。
「君は、どうしてこの学校を受験したの？」
『私のこと、知らない人で溢れかえってて欲しかった。一般人として見てほしかったから…かな。』
あぁ、なるほど。
道が2つに分かれた。
ここを右に曲がれば俺の家。
ここを左に曲がれば葉桜家。
「いつか出会えるよ。俺より周りの目を気にしなくて、Aさんを見てくれる人が。」
これは、慰めではなく確信。
そんな俺の思いを感じ取ったのか、彼女は笑った。
今まで見たどの笑顔よりも眩しかった。
これが、彼女の本当の笑顔？
『うん。ありがとう。君も、チャンスを逃しちゃダメだよ。』
チャンス？なんのことだろう。
『じゃあね。藤野くん。』
「…うん。じゃあね。Aさん。」
やっと、間違わずに呼んでくれた。
彼女はきっと俺の下の名前を知らない。
それでも、俺にはこの距離感が心地よく感じた。
「ビックリしたよ、まさかあの後すぐに父親が転勤するとは。」
たぶん葉桜家の権力を使ったんだろーなー？
そういう目線を彼女に向けると、不敵な笑顔を見せてくれた。
『さあ？なんのことかな？』
…相変わらずだね。
「にしても…なかなかのイケメンだね。彼方さん？だっけ。」
奥で友人らしき人たちと話しているイケメンに目を向ける。
『でしょでしょ？』
「…ま、Aさんも綺麗だから美男美女ってところかな。」
…まだ無自覚だったりするのかな？
昔は自分が美人なことに気付いてなかったからなぁ…。
『あはは、君もお世辞が言えるようになったか！』
…あ、これはだめだ。
無自覚継続だな。
彼方さんがこっちに気付いて歩いてきていた。
「Aの友達ですか？」
うっわ声もかっこよ。
「まぁ、はい。そんな所です。」
『何その煮え切らない感じ〜。』
いや…まぁ……うん。
彼方さんの肩に手を置いて、同情の目を向ける。
「がんばってくださいね…。」
「…え？あ、はい…？」
Aさんはマイペースだから、これから大変そうだなぁ。
でも、きっとこの二人の間には笑顔が絶えないだろう。
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作者名：まき | 作成日時：2022年9月22日 22時
