第二話 鉱物の意味 ページ49
次の日になると、綾辻行人はまたあの依頼の場所に来た。
「綾辻さん!」
二十歳ぐらいの女性が綾辻行人に駆け寄る。
「あの宝石……気に入りましたか?」
桑の花も添えたんです、綺麗ですよね!そう云う顔は分かりやすく、ホオズキの様に赤く染まっている。
綾辻は其れを見て、溜息を吐きたい感情を抑えながら話す。
「ああ。とても綺麗だった。あの宝石は何て云うんだ?」
彼女の親は顔が広く、如何やら政府関係の上の立場である人と交友があるらしい。
俺の知ったことでない。綾辻はそう云おうとしたが、如何やらそうも行かないようだ。
坂口君に絶対失礼のないように。と云われ、仕方なくこのお遊びに付き合っている。
「気に入っていただいて嬉しいですが……、まだ内緒です!」
「……そうか。」
内緒と答える彼女からは何時もラベンダーの香りがする。
「君の父親が亡くなってしまった件だが、矢張り如何推理しても、之は殺人ではなく事故だ。」
そう綾辻は答える。
「……でも私、犯人の影を見たんですよ!」
絶対犯人がいる筈なんです!と主張する彼女はとても品性の欠片も感じられない。何せ此処から話が一切進まないのだ。
「悪いが其れは幻覚か気の所為だろう。之は事故だ。」
でも!と言葉を続ける彼女を黙らせる為、昨日A君から貰った箱を取り出す。
「これを君に渡す。」
彼女に箱を投げると、え!と驚く彼女の反応を見るが、その反応から判る通り、彼女は事件なんて如何でもいいのだ。
箱を開けると彼女の顔が青ざめる。
「……之は、貴方が選んだ宝石では無いですよね。例の女の人ですか。」
そう云う彼女は先程迄の笑顔が消え、俯いている。
例の、というのはAの事だ。綾辻は前に一度、彼女のことを話したことがあった。
「そうだが、何かあったのか?」
そう訊ねると、彼女は何かを察した顔をして、言葉を綴る。
「……あれは事故でいいです、之もお返しします。」
箱を綾辻に押し付けると、依頼料は振り込みます、ありがとうございました。と早口で告げる。
彼女は、まるで首元にナイフを向けられているかのように真っ青な顔で、狼狽えてその場を去った。
その様子を見ると、人を小馬鹿にした薄笑いを浮かべている天才の様子が目に浮かぶ。
一体何をしたんだ、と珍しく置いてきぼりの彼はそのまま事務所に帰ることにした。
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蒼月(プロフ) - ┏( .-. ┏ ) ┓ウリャさん» コメントありがとうございます!面白いと言って下さりとても嬉しいです…!モチベが無くなっていた為、とても助かりました。王子さま良いですよね…私もこの本が大好きなんです…! (9月4日 17時) (レス) id: 371a01970c (このIDを非表示/違反報告)
┏( .-. ┏ ) ┓ウリャ - めっちゃ面白いです!!!しかも異能力名が自分もめっちゃ好きな本なので更に興奮(?)しました。有難う御座います!!! (9月4日 0時) (レス) id: 2c963f022d (このIDを非表示/違反報告)
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