第三十五話 日常 ページ37
「先生!いい加減に報告書を出して下さい!」
「悪いが読書で忙しい。」
本に視線を向けながら、綾辻行人は返事をする。
一方で天才は猫と遊んでいるようだ。
彼女たちは無事、生きて帰ってきたのだ。
────あの館の試練からこの日常、綾辻探偵事務所へ。
「報告書が優先です!もう、之で何度目ですか!」
「ふむ。ではこうしよう。取引条件だ。」
「──もし君が此処で三回回ってワンと鳴いて、その後も首輪をつけて犬のような鳴き声と姿勢のみで仕事に臨むなら、報告書を書こう。」
「対価がでかすぎる!」
『一体、どんな思考をしたらそんな考えに至るんだ?』
猫と戯れていたAが、思わずその会話に混ざる。
辻村深月は少し表情を曇らせ、何かを考えてから口を開いた。
「───綾辻先生、Aさん。京極はもう大丈夫何でしょうか?」
「大丈夫なものか。寧ろ、ここからが本番だ。無論、この後の展開は京極とA君にしか判らないがな。」
綾辻行人はそう答えると、辻村深月はでも、と言葉を続ける。
「あの事件のおかげで、特務課では京極が関わった事件の洗い直しが進んでいます。」
「おかげで政府内にも信じる人間が増えてきました。証拠がなくとも、少なくとも十二の事件で奴がお膳立てをした黒幕だと。」
『十八だ。』
天才は猫に視線を向けながら、直ぐ様訂正を入れる。
「……でも、どうしてもっと早く政府に告発しなかったんですか?」
疑問を感じた辻村深月が尋ねると、二人は答えた。
「奴も承知の上だからだ。半端な手札では、軍警や法務省に伝手の多い京極に逆に利用される。」
『それに京極が黒幕なら綾辻先生の《犯人を事故死させる異能》が発動するはずだと反論されたら、どうなると思う?』
「……先生の異能に未知の不完全性があるとされ、自由が制限されます……投獄もあるかも。」
『嗚呼、それが京極の狙いだ。』
「だが、ゲームは変わった。これからは奴が逃げ、此方が追う番だ。たとえそれが──」
「────それが奴の狙い通りだったとしても。」
綾辻行人は、凍り付くような低温の瞳でそう云う。
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蒼月(プロフ) - ┏( .-. ┏ ) ┓ウリャさん» コメントありがとうございます!面白いと言って下さりとても嬉しいです…!モチベが無くなっていた為、とても助かりました。王子さま良いですよね…私もこの本が大好きなんです…! (9月4日 17時) (レス) id: 371a01970c (このIDを非表示/違反報告)
┏( .-. ┏ ) ┓ウリャ - めっちゃ面白いです!!!しかも異能力名が自分もめっちゃ好きな本なので更に興奮(?)しました。有難う御座います!!! (9月4日 0時) (レス) id: 2c963f022d (このIDを非表示/違反報告)
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