第三十一話 理解 ページ33
『先生は何時も頭脳明晰で冷酷だからな。其のポーカーフェイスは羨ましい。』
「確かに何時も君の表情は分かりやすい。羨むのも当然だが、俺も君の思考までは読めない。────今日は特にな。」
冷酷な瞳がジロリ、と天才を捉える。
其れと同時にAの言葉は止まった。
先程の二人の視線が、激しくぶつかり合っていた雰囲気は一変する。
……部屋はとても静かだ。
綾辻行人は変わらず人形のように無表情で、辻村深月は困惑したような目つきのまま、AAを見つめた
『……そうか。矢張り、私は…』
そう呟く。其の言葉は酷く震えていて、蚊の鳴くような声だった。
だがそれは、シーンとした部屋に響く。
その時のAの表情まで見える者は誰一人といない。
「何だ。」
綾辻行人はその言葉の続きを催促するが、其の言葉は届いているのかすら判らない程、何の反応もなかった。まるで一人だけがその空間に閉じこもっているように。
たった一瞬彼女が辻村深月を見て笑った。
その表情は酷く哀しく、そして────儚い表情だった。
『……済まない。先程の瓦斯が残っていたのかな、取り乱してしまった。』
『此処からは見えないが、廊下にまで瓦斯が充満していないのは判る。廊下には吸気装置があるのか?』
「……ああ。だが、その首輪は外れないようだな。」
『成程。詰まり、綾辻先生のみで行けという事か。』
「如何やらそうらしいな。……此処で待っていろ。」
辻村深月はなぜ平然と会話を続けているのか理解できなかった。だが、其の言葉を聞いてハッとした様子で引き留めた。
「でも!」
「すぐに戻る。」
そう制止され、綾辻行人の姿が見えなくなる。
「……はぁ……一流エージェントには、まだまだ遠いですね……」
気まずい空気を戻すために話しかけた様子だが、其の言葉を聞いた天才は聞こえていないかのように……只々、目を瞑りこの先の展開を予測していた。
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蒼月(プロフ) - ┏( .-. ┏ ) ┓ウリャさん» コメントありがとうございます!面白いと言って下さりとても嬉しいです…!モチベが無くなっていた為、とても助かりました。王子さま良いですよね…私もこの本が大好きなんです…! (9月4日 17時) (レス) id: 371a01970c (このIDを非表示/違反報告)
┏( .-. ┏ ) ┓ウリャ - めっちゃ面白いです!!!しかも異能力名が自分もめっちゃ好きな本なので更に興奮(?)しました。有難う御座います!!! (9月4日 0時) (レス) id: 2c963f022d (このIDを非表示/違反報告)
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