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菱田とは幼い頃から顔馴染みでもあったが、Aは妙に緊張していた。学校でも家でもない場所で、顔を合わせるからだろうか。それとも、久しぶりに人と会話をするからだろうか。
そんな緊張感を抱えながらも菱田とAは、互いの家の中心距離にある駅前で待ち合わせの約束をした。道ゆく通行人がカモフラージュになってくれているから良いものの、同級生や知り合いに見られるのはどうにも抵抗感があり、顔を見られないようにと俯きながら菱田の姿を探す。
この日のためにと装いを拵えたAの姿は、普段とは違い背伸びをしたような満艦飾の風貌で、元の面影がすっかりと消え失せていた。そのせいで、菱田に見られるのがなんとなくうら恥ずかしい気がして落ち着かないのだ。仕立ててくれた使用人は嬉々として煽ててくれたが、Aにはそれが似合っているのかも分からなかった。そして、あれよこれよと施されて、慌てて家を飛び出してきたのだから、不安要素は募るばかりである。
「A、さん」
「あっ、菱田、くん」
菱田は、高校生という年相応には思えないようなあどけなさの残る笑みを浮かべて手を上げた。それが何だか新鮮で、思わずAも釣られて破顔する。
「ち、ちょっと待って、本当に」
「え?」
「Aさん、凄く綺麗でびっくりして」
菱田は合流して早々、自身の手で顔を覆い感嘆の声を溢した。その様子を見るに、先ほどの心配はどうやら杞憂に終わったようで、Aは一先ずホッとする。
「良かった。似合わないかと思ってたから」
「いや、俺のために着飾って来てくれたんだって思うだけで、本当に嬉しい」
「あ、いや、その」
周囲を流れる空気に熱が隠ったように感じて、互いに頰を赤くした。菱田のその姿からは女の人に慣れていない、清浄な心の持ち主なのだということが伝ってくる。
学校では女の子から秋波を向けられ、黄色い声を浴びせられ、玲王に次いでも名の知れている人物であると認知していたので、平生の彼の姿とAの中での印象が変わった。
「え、っと、どこ行きたい?今日は俺の我儘で来てもらってるわけだし、Aさんに決めてもらいたくて」
「我儘だなんてそんなこと!それに、私はあまりこの辺りに来ないから詳しくなくて……」
「あ、そうなんだ……なら、今日は俺に任せてもらってもいい?」
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黄泉(プロフ) - 七星さん» はじめまして、コメントありがとうございます!またこのお話をお読みくださり、面白いとのお言葉までありがとうございました!🥳 わっかります、むしろ、彼にならどんな手を使っても奪われたいくらいですよね笑 どこかでご縁がありましたら、またお願いします! (2023年2月7日 23時) (レス) id: ead223a600 (このIDを非表示/違反報告)
七星 - とっても面白くて、一気に読んじゃいました.ᐟどんな手を使ってでも玲王くんなら許しちゃうかもです(笑) (2023年2月7日 22時) (レス) @page34 id: 0897eb2537 (このIDを非表示/違反報告)
黄泉(プロフ) - 真昼さん» はじめまして、コメントありがとうございます🙇♀️続きが楽しみだと言って頂けてとても嬉しいです!あと少しで完結になると思いますので、どうぞもうしばらくお付き合いの程よろしくお願いしますm(__)m (2023年2月4日 11時) (レス) id: fe076a4b2d (このIDを非表示/違反報告)
真昼 - 続きが楽しみです! (2023年2月4日 10時) (レス) @page19 id: 94c427d0c3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:黄泉 | 作成日時:2023年1月28日 10時