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「ほんとひでぇよな。お前と過ごせる時間を楽しみにしてんのは、俺だけってことだろ」
「れ、玲王……?」
どこか躍起になってしまったのか、鼻先で笑いながら吐き捨てる玲王の言葉はペテン師の囁きの如く薄っぺらく感じる。まるで、感情と身体が乖離して別物になってしまったようだった。玲王の憎悪に歪んだ瞳は鋭くAを捉えているのに、声音は酷く高揚しているから、尚更そのように思えてしまう。
「Aにとって俺はただの幼馴染って認識なんだろうけど、俺はちげぇから。んなこと、1ミリも思ったことねえし」
「ちが、私は玲王を大切に思ってるからこそ、善かれと思って……!」
「なあ」
壁に貼り付けられていた身体を一瞬解放されると、今度は性急に抱き締められた。首の後ろに回った腕が力強くて、玲王の胸板に顔をぐりぐりと押し付けられて息が苦しい。
玲王の背丈が高いことは知っていたが、これほど差があっただなんて今日まで気づかなかった。制服の上からでも分かるくらいの精悍な体つきは、筋骨逞しく鋭さと重々しさを漲らせているのがはっきりと分かる。
今までも何度か触れ合ったことがあるはずなのに、玲王の雄偉な胸板の感触も、男の人の濃い匂いも、今初めて知ったような気がする。それは、彼が一人の男として成長していたということを、これまで意識したことがなかったからなのかもしれない。
「もし、俺があいつと付き合ったら、こうしてお前を抱きしめることも出来なくなるんだぞ」
背中に回った腕に更に力を込められて、背骨ごと彼に呑まれてしまうのではないかと思った。
「それでもお前は、いいのかよ」
震えるような声は、何かに縋るような物言いでもあった。けれど、確かにそこには否定することを許さぬような脅迫にも似た気魄も感じる。
「それは確かに、嫌、かもしれない……けど、けどね、あの子と玲王が幸せになって欲しいとも、思うの……」
「______は、」
「……呆れた?」
「呆れまくってるに決まってんだろ。ほんと、俺ってお前に振り回されてばっかだな」
諦めのような、乾いた笑みだった。傲慢ささえ宿らせていた瞳は、今や仄暗く虚ろとしている。
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黄泉(プロフ) - 七星さん» はじめまして、コメントありがとうございます!またこのお話をお読みくださり、面白いとのお言葉までありがとうございました!🥳 わっかります、むしろ、彼にならどんな手を使っても奪われたいくらいですよね笑 どこかでご縁がありましたら、またお願いします! (2023年2月7日 23時) (レス) id: ead223a600 (このIDを非表示/違反報告)
七星 - とっても面白くて、一気に読んじゃいました.ᐟどんな手を使ってでも玲王くんなら許しちゃうかもです(笑) (2023年2月7日 22時) (レス) @page34 id: 0897eb2537 (このIDを非表示/違反報告)
黄泉(プロフ) - 真昼さん» はじめまして、コメントありがとうございます🙇♀️続きが楽しみだと言って頂けてとても嬉しいです!あと少しで完結になると思いますので、どうぞもうしばらくお付き合いの程よろしくお願いしますm(__)m (2023年2月4日 11時) (レス) id: fe076a4b2d (このIDを非表示/違反報告)
真昼 - 続きが楽しみです! (2023年2月4日 10時) (レス) @page19 id: 94c427d0c3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:黄泉 | 作成日時:2023年1月28日 10時