可能性はfifty-fifty

UNTITLED ページ37

大丈夫、大丈夫だ。
その一言をオレは誰に対して言っているのだろう。
微糖なのにかなり甘い缶コーヒーを握りしめて、「手術中」と赤く照らされた文字を黙って見つめていた。

一言「来週、手術します」とだけ送られてきたメッセージ。
もうAはほとんど喋ることが出来ない状態だった。
夏休みの歌練の合間を縫って病室を覗くと彼女は弱く微笑んだのを今での覚えている。
「…だいぶ瘦せたな」
どういう感情で言ったのか、自分自身でもよく覚えていない。
「お前がいないと、曲が完成しねぇんだよ」
以前より細くなってしまった腕で、彼女はパソコンに向かって文字を打つ。
＿＿わずかに、タイピングも遅くなっていた。
『私が居なくても、曲は完成できます』
「…そういう意味で言ってねぇよ」
少し声を低めて言うと、Aはオレから目線を外し窓を見つめた。
「A」

「＿＿「伝説」を超えずに勝手にどっか行ったら、許さねーからな」

オレの言葉に彼女は何一つ反応しなかった。




「＿＿…東雲君」
「…こはねか」
「杏ちゃんと青柳君も、すぐに来るって」
目線だけで返事をし、また俯く。
どうやらオレの心は、何も言わずに座ったこはねを気にかけられない程余裕が無いらしい。
「Aちゃんの手術が終わったら、皆で色々な所に行きたいね。今の時期なら海でもいいし、フェニランでもいいな…それで皆と写真撮って、沢山ライブして＿＿」
だんだん涙声が聞こえ、思わず顔を上げる。
「…泣くな、あいつは強いから大丈夫だ」
「…っそう、だよね…っ!」
分かっているのだ。
オレもこはねも、杏も冬弥も。
手術の成功率が70％を切る恐ろしさを、身をもって今体感している。
10人に3人は失敗する。それが怖くてたまらない。
なのにこはねは、Aの未来を信じてどこに行きたいだのライブをしたいだの言っているのだ。
信じない理由があるか?否、答えはNOだ。
今オレ達に出来る事は、Aを信じること。
それしかなくて、それが一番良い気もする。

赤いランプが、ぷつり、と消えた。




「＿＿ちょっと!病院内では静かにしてください!!」
私と冬弥はその言葉を無視してAがいるという手術室前廊下を走っていた。
「あーあ、冬弥も私も悪い子供だなー」
「…否定はしない」
そう軽口を言い合うが、気持ちは焦る一方だ。
…大丈夫。私は信じているから。

「＿＿杏ちゃん…!!」

廊下前の椅子に座っていたこはねと彰人と合流する。



「彰人＿＿」



「…おせぇよ」

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