実.況してみた【実.況者】 (ページ39)

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実況39 ページ39

Side.キヨ

夕方であるからかまだ人はたくさんいて、でもひと目にはつかない。

でも大きな夕陽になりかけている太陽は俺たちを照らしていた。

「…なぁ、柳。」

引いていた腕をぐいっと自身の方に引き寄せ横を歩くように促す。

名前を呼ばれたことに驚いたのか少し困った顔で笑ってくる。

「…何？どしたの？」

本当の名前、教えて欲しい。

喉まで出かけたその言葉に重みを感じる。
まだはやい。

今日会ったばかりで、でもこの前までは毎日のように電話をする仲だった。

「…いや、やっぱなんもねぇ。腹減ってね？」

「え、うん。お腹空いたよ。なに、奢ってくれるの？」

「おう、おごってやるよ。あー…でも金ねぇや。」(笑)

そういえば、と今日はあまり財布にお金を入れていないことを思い出す。

自炊したの食うか。

「それ本気で言ってる？」

「本気本気。柳って料理できる？」

唐突に質問すると、立ち止まった。
え、なに？

柳が立ち止まると腕を握っている俺ももちろん止まってしまうわけで。

「…？どったの？」

「…それ、期待して…、いいの？」

先程とは打って変わって、動揺が丸わかりの柳。

その言葉に少しドキリとする。

もうチャンスはない。これを逃したら終わりだと思ってしまった。

「…うん。行くか。」

そう言って俺は少し人通りの少なそうな道を選びながら家路についた。