【ヒプマイ】営業先の人【観音坂独歩】

独 ページ17

｢いただきます｣


湯気を纏っただし巻きはビールの炭酸のおかげでわふわで口の中でとろけて、出汁の味と明太子の味がうまいこと絡んでた



｢……美味いじゃん｣




Aも一口食べて嬉しそうに自画自賛した



｢……美味い｣





たしかになんか懐かしい味で、特に久しぶりに食べた温かいものだったから世界一美味しかった



｢明日仕事じゃねぇの？｣



卵を両頬に詰めてるくせに一応手で口を隠して喋るAの小動物感がすごい



｢有給取る……俺のせいだし｣


でもそんなAを直で見れない俺は横目でみてて


それでもわかるくらいあからさまにムッとしたAは卵をなんとか飲み込むと体ごとこっちに向き直った


さすがにちょっとびっくりしてAを見たら予想以上にムッとした顔だった




｢独歩のせいじゃねぇって、次ぬかしたらもうねぇからな｣



しっかり自分の意思を伝えてる時すこぶる口が悪くなる癖は自分で気がついてないのか？



こうだ！こう！……と首の前で親指を勢いよく動かすなんの威嚇にもなってなくてただ可愛らしいだけで終わった


｢……はっ｣


それが面白くてちょっと笑ってしまった



｢なにわろてんねんこの野郎！｣



軽くふざけて頬にパンチをくらわせてくる


｢はは、｣


特になんにも面白くないのにますます笑いはこみ上げてきて腹を抱えて笑った


Aもつられてムスッとした顔から徐々に笑顔に変わっていった



｢はぁ｣



一通り笑って落ち着いてお互い一息ついた



｢私のために有給ありがと｣


また三角座りに戻って膝に両手で枕を作って横向いて俺を見るAは急に色気が増した


ちょっとふにゃっとしててお酒のせいで顔が火照ってて


ギャップに振り回されてる



……しんどい




直視出来なくてビールを誤魔化しに飲んで、なんとなくついてるテレビに目線を移した




｢私、昔から友達に恵まれなかったから嬉しい｣



Aも目線をテレビに移してビールを片手にとった



｢私すごい口悪いでしょ？｣



……ああ自覚あったんだ


姿勢を直して今度は膝に頬杖をついた




｢ママが生まれてすぐ亡くなって、パパが男でひとつで育ててくれたんだけど暴力団だったの｣


｢え？｣



思いもよらずデカい衝撃にビール缶を落としかけた



｢そのせいで友達が全然できなくて、しかもパパも私が高校の時にある日か帰ってこなくなっちゃってさ……｣



Aの瞳に映るテレビがどんどん影を濃くしていった

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