玖【小夜左文字】 ページ18
僕は、あの見習いに復讐するために呼ばれたのだと思っていた。けれど目の前の主は叫んだ。呼吸すらままならないのか短く浅く呼吸をしている。泣いている。復讐に囚われた僕の黒い手では、主を撫でることすらできやしない。涙が主の頬を伝う。足音が手の刀を強く握る。僕には、傷つけることしかできない。あの時も、僕が一番初めに裏切った。守れなかった。足音がする。ストン、と襖が開いて、今剣の見開かれた目とかちあった。
「主が、」
「あるじさま！！！」
は、と短い息を吐く。主の肩は細かく震えている。裏切った僕ではない、主の刀。今剣の細い手が、五虎退の白い腕が、柔らかく主を支える。その腕を振り払い、主はなお一層身を丸め、荒く息を吐きだしている。その背を骨喰藤四郎がさすっている。
「なにをしたのですか、さよさもんじ」
「主を、裏切った」
「それはじゅぐのけっかでしょう。いま、あるじさまになにをしたのかいいなさい」
「…
それ自体が、主にとっての毒となった。前本丸にいた僕でなければ、別の僕ならば、主は、こんなに取り乱さなかったかもしれない。
「小夜」
薬研藤四郎。先程まで主の口にビニール袋をあてがっていた彼は、いつの間にか立ち上がってこちらを見据えていた。
「まっさらな、刀がほしいと、大将はそう言っていたのか」
「ううん。でも、そうとしか考えられない」
だって、僕はなにもしていない。なにも、してあげられていない。
「そうか」
主が山姥切の布を掴んでいるのが見え、目を伏せる。僕だって、抗えた、はずなのに。
「あとでゆっくり話そう、小夜」
鳴狐の柔らかな声とともに、黒い物体が振り下ろされる。手刀だ、と思った次の瞬間、意識は闇へと落ちていた。
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匿名狐(プロフ) - 夕月 刹那さん» わ！良かった！そう言っていただけて嬉しいです！ありがとうございます！ (2018年5月30日 15時) (
レス) id: 19251f6155 (このIDを非表示/違反報告)
夕月 刹那(プロフ) - これ、私の好みドストライクです！次の更新が待ちきれない、、、！ (2018年5月29日 19時) (レス) id: 87fbf3b4b6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：匿名狐 | 作成日時：2018年5月23日 22時
