9.蜘蛛の糸 ページ11
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「あーーー、捕まったんですね。」
この前と同じようにダクトから飛び降りてくるこの男は、到底逃がしてくれた人とは思えないくらい呑気な調子でそう言う。
栗色の猫っ毛がやけに似合うこの男、ショッピは、アメジストの瞳を弧に描き、悦に浸っているのだ。まるで、戻ってきたことを喜んでいるみたいだ。
「しかも、こんなにしっかり縛られて。」
ジャラ、と鎖を持ち上げ、じっくりと眺める。
そして、私に向き直ると淡々と告げた。
「もう逃げるのは無理そうっすね。」
あまりにもあっけらかんと言う為に、私の心は折れそうだった。今にも泣いてしまいそうで、必死に彼から顔を背ける。
「ははっ、そりゃ悲しいですよね。逃げたいっすよね。」
『当たり前でしょ。なんで笑うの。』
「いや、1つ提案しようかなって。」
『は.....？提案？』
「逃げることは不可能でも、一時的に外出することなら出来ますよ？」
『なんで初めから逃げることが不可能になってんの。』
「もう分かったでしょ、どんなに遠くにいてもゾムさんはすぐ戻って来るって。あの人は普通とは違うんです。」
『ッ.......。』
「でも、一時的になら逃げてもバレないと思うんですよ。」
『.......一時的なら外に出れるの？ほんとに？』
「まあこう見えても俺、ピッキングとか上手いですから。」
『ならお願い。助けを求めたり、逃げる手がかりが掴めたりするかもしれないし。』
「わかりました。俺、そういう女嫌いじゃないですよ。」
そう言うとショッピはニヤッと怪しく笑う。
それが契約完了の合図だったようで、彼はどこから出したのか分からないような鋭い金属を次々と使いながら、器用にも私の鎖を全て外してしまったのだ。
「ほら、言ったでしょ。」
『すごい...ほんとに全部外せるなんて......。』
「それじゃあ、試しに城下町にでも行きましょうか。」
『そうだね、っ...わ！！』
しばらく歩けてなかったからか、歩き方が分からなくなった私はよろけてしまう。そこをすかさず彼が助けてくれて何とかなる。
「はは、やっぱ気にせずにはいられへんな。」
運命のいたずらなのか、私の頭の中にはその短時間で逃げるという考えが過ぎらなかった。それが後にも先にも、私の運命を大きく狂わせるとは思いもよらなかったのだ。
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作者名：らあ。 | 作成日時：2023年5月6日 12時
