【番外編】わんこ古賀２ ページ4
とりあえず一旦落ち着こうとポケットの中から塩キャラメルをとりだした。
コンパクトですぐに食べることができるのが魅力の一つだと俺は思っている。
口に含めばいつもの味がして、非現実的で非日常な、夢のような現実を一瞬忘れさせてくれた。
もう一つ、とまたポケットに手が伸びた時勢いよく顔を上げた古賀は言った。
「わかった！ 匂いの正体は塩キャラメルだ！ 」
一瞬驚いたがなるほどとと思った。
"いい匂い"の理由ではなくこいつが静かだった理由だ。
言わずもがな、"いい匂い"の正体を必死に考えていたんだろう。
馬鹿なやつだ。といつもなら罵っているはずなのに俺もこいつに甘くなってしまったらしい。
「食べる？ 塩キャラメル」
そう、口に出していた。
「食べる！ 」
嬉しそうな声を発した古賀は俺に顔を向けたまま口を開け目を閉じた。所謂あーん顔だ。
無防備なその姿を、本来なら写メって後で散々からかってやるのだが何故だか今日はそんな気分じゃなかった。
「喉つまらせんなよ」
どこかワクワクして待機している小さな口に甘い四角を放った。
辺りに花を飛ばしながら塩キャラメルを頬張る古賀。
何かに気がついたような顔をしてさらにじっくりと堪能した後、心底幸せそうな顔で俺を見上げた。
「国見！ さっきの高級なやつだよね！ 」
そう。俺がさっきこいつに食わせたのは１、２個しか忍ばせていない高級塩キャラメルだ。
人には滅多にあげることのない、お気に入りの中のお気に入り。
それをなぜかこいつに食わせたくなった。
なぜか、なんてわかりきったことだけれど。
「なんで？ ねえねえなんでくれたの？ 」
「……別に。
たまたま手にとったのがそれだっただけ」
でもその答えは絶対誰にも言わないしこれから先言うつもりも毛頭ない。
馬鹿は馬鹿らしく考えてればいいんだよ。
一生懸命答えを探している古賀を鼻でふっと笑えば
「ありがとう！ 国見！ 」
こいつは考えるのをやめたらしい。
今日一番とも言える笑顔に俺の心が盛大に反応しているのがわかった。
ふざけんな。反則だ。そんな言葉が体中を飛び交う。
よく無表情と言われる顔が少し熱を持ち始め、堪えていた頬の緩みがどうにもならなくなった。
こんな顔、見られてたまるか。と古賀の顔をやや強引に正面へと向ける。
さっき触れることのできなかった髪と耳は、想像以上に柔らかかった。
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