声 ページ10
……はぐれてしまった。
俺は歩き疲れた足を休めるべく、手頃な高さの木によじのぼって枝に腰かけた。
赤と紫の入り混じった空を見つめ、溜め息をこぼす。
……今夜は一人で野宿か。
退路を“通せんぼ”していた天人達の抵抗は意外にも強く、無我夢中で戦っている間に、いつの間にかはぐれてしまったのだ。
ダメ元で辺りに目を凝らしてみたが、人影一つ見つからなかった。
もう一度、溜め息をつくと、俺は後頭部で手を組み、幹に寄りかかって目を閉じる。
今生の別れになる訳ではあるまいし、目を皿にして仲間を探す必要はないか。
そう思うも、鬼兵隊のことはどうしても心に引っ掛かる。
瞼の裏に、隊士の顔が次から次へと浮かんでは消えた。
「……探すか」
俺は木から飛び下りると、完全に日が落ちる前に、と足を速め始めた。
〜〜
鬱蒼とした森の近くを通りかかった時のことだった。
人が倒れているのを見かけ、驚いて足を止める。
暗がり中、抱き起こして顔を見ると、うちの隊士だった。
腹を思い切り、かっさばかれている。これでは、万が一にも助かるまい。
森の奥を見やると、7、8人、人間が倒れているのが見えた。
──こんなに大勢……。何があったんだ?
死の冷たさを感じる肩を抱いて、奥歯を噛み締めていると、隊士の短い睫毛が震えた。
「……ぅ……と……く…………?」
うっすらと瞼が持ち上がり、光のない瞳が俺を見る。
はっとした俺は、隊士の身体を揺すった。
「おい!しっかりしろ!!何があったんだ!?」
「……き……つ………け……て………」
血の気を失った唇が、小さく動き、弱々しい息を漏らした。
「……ば………け…………」
その後はどれほど待っても、隊士の声が聞こえることはなかった。
────“気を付けて”……か?その後の言葉はよく分からねェな。
やがて、男は完全に目を閉じた。
その亡骸を、そっと地面に横たえる。
───次の瞬間。
何者かの気配を感じ、俺は抜刀しながら立ち上がり、森の奥を見た。
カラン。
俺が刀を落とした音。
「───久しぶりですね、晋助」
超然とした微笑を浮かべた松陽先生が、そこにいた。
- 金 運: ★☆☆☆☆
- 恋愛運: ★★★☆☆
- 健康運: ★★★★★
- 全体運: ★★★☆☆
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Physics(プロフ) - ピピコさん» ありがとうございます、ピピコさん……!まさか二作品も私の作品を読んでいただけるとは……!高杉オチということで、なるべく美しい表現をするよう心掛けていたので、その点に触れてもらえて、とても嬉しいです!これからも全力で頑張ります!! (2017年9月4日 20時) (レス) id: 363eb1b3ec (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - コメント失礼します!!文章に綴られている言葉とかが全部綺麗でとても引き込まれました!!夢主ちゃんのキャラクターも好きです!面白くて一気読みしちゃいましたー!!続きも楽しみに読ませて頂きます!応援してます!! (2017年9月4日 15時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
Physics(プロフ) - 零・れいさん» 素敵なコメントありがとうございます!書き方を褒められたのは初めてのことで、嬉しさのあまり思わずにやけてしまいました(笑) 自分の書いた小説を楽しんで読んでいただけることが、一番嬉しいことなので。これからも楽しんでいただけるよう、頑張ります! (2017年8月25日 16時) (レス) id: 28db851a9c (このIDを非表示/違反報告)
Physics(プロフ) - ひなさん» たしかに怪談話って単語を抜いたら乙女ゲーとか少女漫画に出てきそうな台詞ですよね笑。子安ボイスの有効活用というか笑。ヅラの初恋は近所の未亡人らしいですし、未亡人に新しい夫が出来てて「エッ(°Д°)!?」みたいなのありそうです笑。 (2017年8月25日 16時) (レス) id: 28db851a9c (このIDを非表示/違反報告)
零・れい(プロフ) - オリキャラあまり好きじゃないけど、初めてオリキャラ小説でも楽しめました!書き方がとても丁寧で美しくて、尊敬します!! (2017年8月24日 23時) (レス) id: 402be4125c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Physics | 作成日時:2017年8月10日 21時