【銀魂】 空 蝉 【高杉晋助】

要するに ページ42

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ったく、あの野郎……。


現在、戦の拠点としているだだっ広い廃屋の縁側に腰掛け、俺は募る苛立ちを舌打ちに変えた。


無論、脳裏に浮かんでいるのは、あのクソ天パ野郎の小憎たらしいツラで。


思い出すだけで、むかっ腹が立って仕方がない。


「いやいや、それはマジないって〜！」


タイミング悪く聞こえてきたのは、胸糞悪くなるアイツの声。


大腿の上に置いた手が拳を握ってしまうのは不可抗力というものだろう。


……ぶん殴りてェ……。




何かを破壊したい衝動を必死で堪えていると、


「……これはまた随分と虫の居所が悪そうだな」


頭上から、少量の呆れを含む落ち着いた声が降ってきた。


顔を見ずに、低く問う。


「……何の用だ」


「何の用もない」


「なら、どっか行ってろ。機嫌悪ィの分かってんだろうが」


棘を含む俺の台詞を三条は平然と受け流し、あろうことか俺の隣に腰を下ろした。


俺は溜め息混じりに、勝手にしろ、とこぼす。




しばらく、無音の時を共有した。


その中で、少し心に余裕の生まれた俺は、ちらりと三条を盗み見た。


端正に整った横顔。長い睫毛に縁取られた瞳。


その夜空を閉じ込めたような瞳を見ていると、胸に抱えていたわだかまりが、少しずつ吸い込まれるように消えていくのを感じた。


不思議に思いながら、惚けたように三条の横顔を見つめていると、やがて小ぶりな唇が動いた。


「……お前の案もなかなか悪くなかったと思うぞ」


紡がれた音に、我に返り、俺は奴から目を背けた。


どうやら、俺をなだめに来たらしい。


コイツにも少しは“可愛げ”というものがあるのか、と思った俺だったが、すぐにその考えは甘いと思い知らされた。


「……まあ、銀の字のものと比べると劣るが」


「テメェはわざわざ俺を煽りに来たのか……？」


またもや、銀時に対して怒りがこみ上げてきた。


そして、頭の片隅で不思議に思う。


ヅラや辰馬に銀時の肩を持たれたらヅラや辰馬を殴りたくなるのに、コイツに持たれると銀時を殴りたくなるのは何故なのか。


そんな取るに足らない疑問は、続いた三条の台詞で忘れる。


「お前には下手な慰めは不要だと思ったのだが……違ったか？」


反論できなかった。


たしかに、三条に『私は銀の字の作戦よりお前の作戦の方がよいと思ったのだぞ？』と言ってほしいとは思っていない。


が、だからといって、腐れ天パを支持してほしいわけでもなかった。




要するに、俺はまだ面倒なガキなのだ。

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