【銀魂】 空 蝉 【高杉晋助】

波の音に誘われて ページ33

夜。


食事と呼べないほど軽い粗末な食事を済ませた後。


あれから姿を眩ませている三条が気になった俺は、辺りをうろついて、奴を探していた。


銀時はいる。夕飯の時にしれっと混ざっているのを見た。が、三条はあれから帰ってこないままだ。


『あれ……アイツいないんだ』。


夕方の件を銀時も一応気にしているらしく、ぼそっとそう呟いたのを聞いた。


しかし、まあ、いないのはおかしいことではない。


去り際に“失礼”とは言ったが、“少々出掛けてくる”とか“夜には戻る”とか言った訳ではないのだ。


戻ってくる方が、おかしいかもしれない。


だから探す必要はないのだが、やっぱり気になってしまって。


あのどこか儚げな後ろ姿を探して歩いていると、どこからか波の音が聞こえてきた。


海が近いのか。


そういえば、作戦会議で広げた地図に海が描いてあった。ここは沿岸部なのか。


潮の香りを吸い込み、俺は森の中を移動した。






しばらく歩くと、森の外に出た。森は崖の上へと繋がっていた。


開けた視界。


その中で俺は、探していた背中を見つけたのだった。


「……オイ」


立ったまま、崖から下の海を眺めているソイツに呼び掛けてみる。


反応はない。どうやら、波の音に声が掻き消されてしまっているらしい。


少し逡巡した後、人影に歩み寄る。


「……オイ、」


もう一度、同じように呼び掛けると、今度は反応があった。


びくっと肩が跳ね、バネ仕掛けのように勢いよく、三条が俺を振り向いた。


「高杉……」


目を見開く攘夷小町の隣まで移動すると、足を止め、眼下の海を見下ろした。


海は真っ黒で、少し荒れていた。


崖の下に打ちつける波は大きく、飲み込まれれば水夫でも生きては帰れないといった風情だ。


「……よくここが分かったな」


三条の声に、俺は視線を海から奴へと移した。


「波の音に誘われて来てみたら、テメェがいたってだけの話だ」


「……そうか……」


「……えらく落ち込んでんじゃねェか。あのちゃらんぽらんの説教がそんなに堪えたか」


力ない笑い。


やっぱりコイツは硝子だ。


そう確信し、海を見た。

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