異なる二人の自覚 ページ33
私は、ヒロインになれなかった。ただその事実だけが私と彼との間に存在してしまっていた。
きっと追ってくる事もないだろうに、彼の呼吸がすぐ耳元まで聞こえる気がして、私は薄暗い渡り廊下を走り抜け、レッスン室にも戻らずにそのまま二年生寮の自室まで駆け戻った。
部屋の軽い扉を閉め、一息吐いた途端にずるりと体の力が抜け、玄関先にへたり込む。
泣くなんてまさか小学生でもあるまいし、
そんな馬鹿なことはしなかったものの、私は、胸の内をのたくる憂鬱な感情に震える息を吐き出すことくらいしか、できなかった。
漸く落ち着いたかと思えば、今度思考回路に組み込まれていくのは、彼の傷付いたような表情と幾らも甘い情を含んだ萩色の目。
言えやしないだろうに安い謝罪の言葉を考えて、私は小さくチェネレントラの台詞を言ってみせた。
今はどれだけ下手だとて、その台詞を言ってみたかった。
「…あぁ、愛してるわラミーロ。心の底から、」
「はは、…私も愛しているよ、アンジェリーナ」
彼の深い声で呼ばれる筈だったチェネレントラはどこかへ姿を眩ませ、ラミーロも身勝手な入れ物の所為でチェネレントラに会うことすら許されないままで、きっともう戻ってこないだろう。
ごめん、なんて軽い言葉を幾つも繰り返したとて、彼が目の前に現れる奇跡が起こるはずもなく、私は初めて、魔法仕掛けの夢物語で終わらせてくれなかったチェネレントラという演目を、恨んだ。
魔法使いのお婆さんに、カボチャの馬車、ネズミの馬にネズミの御者、硝子の靴、
慣れ親しんだお伽話で終わっていれば良かったものを、魔法で全てを元に戻せれば良いものを、
私は今の自分にとって一番大事なパートナーである彼という存在を失ってしまったのだ。
自分から突き放して、伸ばされた手を拒み、はちゃめちゃに傷を付けてやるなんて仕打ちも添えて。
不意にざあざあと窓を雨が叩き出した。
薄く開けていた窓の取手を掴み、硝子を部屋の方まで引き寄せてやりながら、ふと、桜のことを思い出す。
この雨じゃあ散ってしまうだろう。
もう花見なんて名目でデートに誘うことすら私には許されていないらしかった。
「あ、台本忘れた」
彼に会いに行く理由のにもならない忘れ物に、小さくため息を零し、
自分からはじめた仲違いの癖に、早く終えられればいいと身勝手にも程がある、と言いたくなるようなことを思った。
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ゆるぽろう - 了解でございます！！私生活が忙しいのですか、無理はなさらず頑張ってくださいませ…！ネル様が生存していた(？)ということが確認できたので本当に良かったです、例え不定期でも全裸待機します！！体調にはお気をつけて！！！ (2022年8月3日 20時) (
レス) @page42 id: 26d6d8e78e (このIDを非表示/違反報告)
るな(プロフ) - ネルさんの作品、特にこのシリーズとっても好きなのでいつまでも更新待ってます！私生活も占ツクの更新も無理しないでくださいね！ (2022年7月30日 0時) (レス) @page42 id: 7aebf15c07 (このIDを非表示/違反報告)
ゆるぽろう - 本当にお前おこがましすぎるし殴るぞと思われるかもしれませんが、他作品の更新もないので少しと言うかめちゃくちゃ心配でございます。もしも戻って来られましたら泣くので、ずっとここでペンラ振って全裸待機してます。長文失礼いたしました。好きです！！！ (2022年7月27日 22時) (レス) id: 98cc6c3041 (このIDを非表示/違反報告)
ゆるぽろう - 前作や前々作を読み返したり、この作品も最初から見たりしてますが、やはり寂しいですな(何様じゃボケ)私生活がお忙しいようでしたら仕方ありませんし、私一読者がこんなことを言うのなんておこがましいですが、またネル様の物語を読みたいなと日々思っております。 (2022年7月27日 22時) (レス) @page40 id: 98cc6c3041 (このIDを非表示/違反報告)
ネル(プロフ) - ゆるぽろうさん» 把握ありがとうございます、、！！ 解釈不一致に日々呻いております、、笑 納得のいく作品になったら恐らく筆ものるはず、、。 …私も好きです笑 (2022年5月24日 16時) (レス) id: 3cff5be0f2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ネル
| 作成日時：2022年5月17日 19時
