缶コーヒー9本 ページ9
「あ、今日は居た。」
「お、一昨日ぶりだね。やっほ。」
缶コーヒー片手に屋上のドアを開けると、彼の煙草の香りが舞い込んできた。
おいでおいで、と手招きされて、素直に隣に行く。
「あ…らま。」
「ん？あ、気付いた？」
彼の左手を見て、頭が真っ白になった。
「結婚…したんですか？」
「結婚というか婚約やな。…仮面夫婦ってヤツ？」
薬指を見つめて、瞳を伏せる彼。
銀色の小さな指輪。
世間では『婚約指輪』と言われるものだ。
「えと…じゃあ私と居たら不味いですよね…？」
「まぁな。…でも、アンタと話すのは楽しいし、居てええで。」
逆に行かんといて、と微笑む彼に無言で頷く。
私も彼に会えなくなるのは寂しい。
「にしても、おめでとうございます？」
「ふは、あんがと。」
くす、と笑って遠くを見つめた彼。
…お見合いなんて、一般人もあるのだろうか。婚活ならまだわかるのだけど。
「僕さ、見えへんけど。一応ココの会社の社長の息子なんよ。」
「え、そうだったんですか…！？知りませんでした。」
「言っとらんかったしね。…相手の会社のお嬢さんとお見合い。もう決まってた事やし、仕方ないよな…。」
私の疑問を見透かしたように、説明してくれた彼。
少しだけ寂しそうに煙草の煙を吐いた。
冷たくなった缶コーヒーはまだ残っている。
「愚痴は聞きますよ。」
「…助かるわぁ…あんがと。」
疲れたように微笑んで、此方を見た彼にいっそのこと想いを伝えてしまおうか。
一瞬横切ったその考えを切り捨てて。
「じゃーそろそろ行きますね。頑張ってください。」
「おん。…アンタも仕事頑張ってな。」
ばいばい、と手を振った彼に微笑んだ。
屋上を出て、冷たい缶コーヒーを流し込んで。
小さなため息を吐いた。
〈本当は君に気付いて欲しく無かったな。〉
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ネル(プロフ) - おいちこさん» ありがとうございます。 苦い苦い2人のお話、幸せに向かっていくと良いなと思います…！ 缶コーヒーにちなんだ感想、ありがとうございました…！！ (2020年3月24日 20時) (
レス) id: 138836bbb2 (このIDを非表示/違反報告)
おいちこ - うぉぉ....なんてこったぁぁ...！！2人の距離感や、2人の気持ちが通じ合うとき、さよならをしたときが、缶コーヒーなんかよりも断っっ然苦いですぅっ...！2人が再会するにしても、再会せず前を向いて歩いていくにしても、きっと2人は幸せになれると思いますっ！ (2020年3月24日 19時) (レス) id: c71da133ee (このIDを非表示/違反報告)
ネル(プロフ) - みかげさん» レス遅れて申し訳ありません…！！ ありがとうございます…！！ 迎えに行ってくれると私も信じたい…！！笑 完結まで、ご愛読ありがとうございました！ (2020年3月24日 10時) (レス) id: 138836bbb2 (このIDを非表示/違反報告)
みかげ(プロフ) - もう、やですぅぅぅ……(´；ω；｀)なんですか最後の2人が別れるシーン……涙が止まらないんですけど……！！いや、大丈夫。大先生の事なんで離婚してでも夢主ちゃん迎えに行ってくれると信じてるんで……！！！()最後になりましたが完結おめでとうございます! (2020年3月24日 8時) (レス) id: 7b0029aa38 (このIDを非表示/違反報告)
ネル(プロフ) - ゆうかさん» ありがとうございます。 ドタイプだと言っていただけると嬉しいです…！！knさんとutさんのコンビは個人的に好きなので、少し出して見たくて…笑 こちらこそコメントありがとうございました！ (2020年3月23日 19時) (レス) id: 138836bbb2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ネル
| 作成日時：2020年3月22日 15時
