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「…A」
すぐ近くで、掠れた小さな志麻の声が、聞こえた気がした。
ほぼ反射的に顔を上げると、志麻が薄っすらと目を開けて視線だけでこちらを見ているのがわかった。
「志麻…?志麻、しまぁ!!」
志麻が、目覚めてくれた。
私の名前を呼んでくれた。
それが凄く嬉しくて、数個の管に繋がれた彼に抱き着くことができない代わりに、握る手に力を込め直した。
私と同様に、起きた志麻に対して皆がそれぞれ反応を示す。
泣くのを必死に我慢しているうらたさんの横では、坂田さんが素直に号泣する。
「じま゛ぐん…しま゛ぐ、あぅぅっ、」
「…ははっ、坂田、なんて顔しとんねん」
「「「「え」」」」
志麻が、坂田さんの名前を呼んだ。
それに全員の期待の声が重なる。
いち早く身を乗り出したのはうらたさんだった。
「ねぇ志麻君!俺は?俺は?」
「…うらたさん」
「こら、病人相手にはしゃがんの。
ナースコール押すで?」
「…センラさん」
「…っ、はい、センラですよ。
おはようございます、志麻君」
坂田さんだけではない。
うらたさんも、センラさんも。
もう二度と、呼んでもらえないのではないかと思っていた名前を呼ばれる。
必死に堪えていた涙をとうとう流すうらたさん。
そしてセンラさんまでもが目に涙を滲ませていた。
「…やっぱりあれじゃ、死ねへんかったか」
「ばか、ばか…ばか!!」
「…ごめん」
長い眠りから覚めた志麻の声は酷く掠れていて、目も虚ろである。
それでも、とても優しい顔をしていた。
彼は眉を少し下げ、一人一人と目を合わせていく。
「皆…本当にごめん。
めっちゃ迷惑かけて…心配、かけて」
「いいんだよ…志麻君が生きててくれたから。」
でも次また飛び降りようとか考えたら説教だからな、と志麻の額に優しく拳をこつん、と当てるうらたさん。
それがきっかけだったかのように、志麻の目にじわりと涙が浮かんだ。
「もうあんなことせぇへんよ。
だって、もう忘れへんから」
勿忘草が、役目を終えたと言うかのように、
ひとひらの花びらを落とした。
『私を忘れないで』
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ちょこ - とてもよかったです!その後話がもっと欲しい! (2019年10月8日 11時) (レス) id: 1b1d47c664 (このIDを非表示/違反報告)
とあわ - 控えめに言って最高 (2019年5月18日 23時) (レス) id: b018cf85ec (このIDを非表示/違反報告)
羽飛(プロフ) - Tileさん» 感動していただけたなら何よりです!こちらこそ、コメントありがとうございます! (2019年5月6日 16時) (レス) id: 188fe56108 (このIDを非表示/違反報告)
Tile(プロフ) - ガチ泣きしました……すごく面白かったです!!めちゃめちゃ感動でした。感動するお話大好きです!ありがとうごさまいました! (2019年5月6日 12時) (レス) id: 3d55051bee (このIDを非表示/違反報告)
羽飛(プロフ) - 関西風しらすぅ@坂田家さん» そんなに泣いていただけるとは…!こちらこそありがとうございます。目は擦ったら後に響きますので、優しく涙を拭き取って下さいね、コメントありがとうございました! (2019年5月5日 3時) (レス) id: 188fe56108 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:羽飛 | 作成日時:2019年3月9日 12時