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志麻が部屋を出て、やがて玄関のドアの開閉の音まで聞こえてきて、家から出たのだと知る。
愛してる、彼が言ってくれたその言葉が、その声が私を満たしていた。
もう叶わないと思っていたその言葉、声、身体の温もり。
嬉しくて、涙が止まらない。
うらたさんと坂田さんが顔を見合わせる中、私は紙袋の中身をさっそく取り出した。
中に入っていたのは、日記にも書かれていたプリザーブドフラワー。紫苑である。
嬉しいことと、これからどうしたらいいかわからないことと、頭の中で色んな感情が混ざり合って私の脳内を揺らした。
綺麗に包装されたそれを、ベッド横にあったサイドテーブルの上に飾る。
どうしてだろう。
どうして、こんな気持ちになるんだろう。
こんなにも幸せなのに、どうして。
どうしてこんなに、不安なんだろう。
何かに駆り立てられた心臓が、どくどくと脈を打つ。
混ざり合った感情の中で何かが、警鐘を鳴らすようにぐわんぐわんと揺れる。
止まった涙の代わりに、じわりとした冷や汗が流れる。
どうして?と語りかけるように紫苑を見つめた。
彼の日記に書かれていた、紫苑の花言葉。
『君の事を忘れない』
その後に日記にはこれだけは譲れない、と。
絶対に忘れないと、約束すると、書いてあった。
嫌な予感がする。
後ろを振り向くと、うらたさんと坂田さんも同様に思っていたのか、苦い顔をしていた。
ふと浮かんだ、最低最悪の思考。
…止めなくちゃ。それだけは。
その思考に至ってからすぐに、私は何も言わずに駆け出して家を出る。
二人が何かを言っていた気がするが、それは耳に入らなかった。
40階建ての高層マンションの14階に私達の部屋はある。
エレベーターを見やると、それは今30階に居て、尚登り続けていた。
それを見て私は、隣の階段を駆け上がる。
40階建て、つまり屋上は言わば41階。
そこまであと27階。
上らなくちゃ。例え、この足が動かなくなったとしても、這いずってでもそこに辿り着かなくては。
そう、彼の元に。
彼はきっと屋上に居る。
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ちょこ - とてもよかったです!その後話がもっと欲しい! (2019年10月8日 11時) (レス) id: 1b1d47c664 (このIDを非表示/違反報告)
とあわ - 控えめに言って最高 (2019年5月18日 23時) (レス) id: b018cf85ec (このIDを非表示/違反報告)
羽飛(プロフ) - Tileさん» 感動していただけたなら何よりです!こちらこそ、コメントありがとうございます! (2019年5月6日 16時) (レス) id: 188fe56108 (このIDを非表示/違反報告)
Tile(プロフ) - ガチ泣きしました……すごく面白かったです!!めちゃめちゃ感動でした。感動するお話大好きです!ありがとうごさまいました! (2019年5月6日 12時) (レス) id: 3d55051bee (このIDを非表示/違反報告)
羽飛(プロフ) - 関西風しらすぅ@坂田家さん» そんなに泣いていただけるとは…!こちらこそありがとうございます。目は擦ったら後に響きますので、優しく涙を拭き取って下さいね、コメントありがとうございました! (2019年5月5日 3時) (レス) id: 188fe56108 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:羽飛 | 作成日時:2019年3月9日 12時