■ ページ26
.
───ア、満月だ。
舗装されていないガタガタと揺れる道を走る。私とコネシマは肩を寄せあって、死んだ顔で窓の外を見ていた。
「少し戦場へ行くのが早なっただけやし、そんな顔すんな」
「……コネシマは巻き込まれて嫌じゃないの」
「まア、結局自業自得やろ。俺もお前もよう暴れたしな」
「何したっけ」
「……お前なあ」
呆れたように笑う、ぽそぽそと話すその声がひどく心地よかった。何だかんだいって訓練学校の間はずっとコネシマといたせいでコネシマへの信頼は大きい。ゾムも2ヶ月程の付き合いではあるが彼だって信頼できる人間であり私の大切な友人だ。
そんな2人も同じく戦場送り、申し訳ないと思いつつも1人じゃなくてよかったと安堵している私がいた。
「私ら2人、同じ部隊への所属だっけ」
「おお、第3歩兵特攻部隊やな」
「殺す気満々じゃんあの教官」
はー、と溜め息をつく私の横でコネシマはオスマンから貰ったであろう煙草を吸いはじめる。
「そういやお前、ホンマの名前。エリザ言うんやな」
「あー、うん。エンダは弟の名前」
「そーか」
燻る空気の中でコネシマの体温だけがひどく身近に感じられる。肩にかかる重みが安心できるのはこの男だからだろう。
「なあエリザ」
「なに」
「戦場出ても死ぬなよ」
煙でコネシマの表情はよく見えなかった。この男には珍しいくらいの優しくて甘い声、まるで恋人に言い聞かせるように囁くものだから私は思わず笑ってしまう。
「分かんないよ、戦場じゃ運だって関わってくる」
「運なんて掴み取るもんやろ、お前には死んだ味方の死体盾にしてでも生き残ってもらわな」
「なんでよ」
「墓場までお前に付き纏うって決めてんねん、簡単に死なれちゃ困る」
ぎゅむ、と摘まれる鼻。相変わらず距離感の近い男だ。
「……本当に君は私のことがすきだね」
「知らんかったんか、相当重症やで」
「笑える」
地獄までの片道切符を片手に私達は車の中で肩をよせあってくすくすと笑う。この先、どちらかが生きても死んでもまだ笑えているだろうか。
まだ私はこの場所で友人と生きていたい。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 653人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
臓臓臓(プロフ) - 早桃さん» コメントありがとうございます！ゆっくりではありますがまちまちと更新していきますのでこれからも何卒よろしくお願いします！ (5月8日 5時) (
レス) id: 982e9ff04d (このIDを非表示/違反報告)
早桃 - めちゃくちゃ好きな作品だ！作品の雰囲気とか作者さんの物語の描き方とかもう全てが好きです💖これからも無理せず更新頑張ってください！応援しています📣次の更新楽しみ！ (5月4日 9時) (レス) @page48 id: a1ce5d49cc (このIDを非表示/違反報告)
臓臓臓(プロフ) - モモモさん» コメントありがとうございます！！ 構想してたものをようやく見せることができて嬉しいです！のんびり更新ではありますが何卒ご愛読頂けますよう頑張って参ります〜！ (5月4日 1時) (レス) id: 982e9ff04d (このIDを非表示/違反報告)
モモモ(プロフ) - 最新話読みました...タイトル？回収最高です！手叩いて喜んじゃいました！本当に文章で魅せるのがお上手すぎてびっくりしちゃいました。更新楽しみにしてます！ (5月3日 22時) (レス) id: de8d799915 (このIDを非表示/違反報告)
臓臓臓(プロフ) - 無案のむあんさん» 嬉しいですー！！！意識してるところをたくさん褒められるの嬉しいです！これからも何卒ご愛読お願いします！ (5月2日 2時) (レス) id: 982e9ff04d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：臓臓臓 | 作成日時：2024年1月5日 8時
