【ky】実況者の憂鬱

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ウーンと静かな室内にPCのモーター音が響く。
時刻は21時25分。あと30分ほどで毎月恒例のレベル上げ配信の時間となる。

Aは片手にチューハイ缶、もう片手にコンビニで買ったつまみを持ちぎしりとデスクチェアに深く腰かける。
Twitter、もといXに「あと30分くらい〜」と投稿すれば瞬く間に拡散される。嬉しい反面、暇な人が多いものだと思う自分に少し笑みが溢れる。
　
「ゲーム実況」というジャンルが人権を得てから早10年足らず。活動開始時よりはまあやりやすく、そこそこな生活を送ることができる。昔はなんて懐かしめるくらい成長したものだと少し感慨深い。
　
ブルリと机に置かれたスマホが震える。配信前だというのに何だと薄く灯りのついたスマホを見やると10年来の友人キヨからであった。
　
『起きてる？』
　
と、簡潔で簡素な5文字。こいつ、配信前だというのを知らないのだろうか。配信するんだから起きてるだろうと言う呟きは喉奥にしまい、カシュと持ってきたチューハイを開ける。
振ってしまっていたのか飲み口から泡が出てきて慌てて啜る。ひとりでわたわたとしていると独特の着信音が響き思わずピクリと肩を振るわせた。
飲み口に口をつけながら画面を確認すると『キヨ。』の文字。あとで出ないと後々面倒なことが多いため小さく息を吐き通話開始のボタンを押した。
　
『おい、おせーよA』
　
開口一番、普段全世界に配信している明るく快活な声とは違い暗く低い声が聞こえてきた。
　
「今から配信なんですけど？」
　
ゴクリと口の中に入れた酒を飲み込み口を開く。キヨはそんなの知ってると言わんばかりに「だからだろ」と悪びれもせず言う。
向こうでカチカチとマウスの操作音が聞こえることから編集中なのだろう。作業があるならわざわざいらないのに。と思いながらもゆっくりと酒を煽る。
　
「俺の暇つぶしなくなったら困るからこうして毎回電話する俺の身にもなれよ」
　
「それは毎度どうも」
　
軽口を叩きながら話をしていると時刻は22時に差し迫ろうとしていた。
　
「じゃあ、そろそろ」
　
電話を切ろうとすると画面越しから待って、声が聞こえた。すぐさま「なんでもない」といいキヨはぷつりと電話を切った。
　
彼が何を言いたかったのか。それを考えるにはあまり時間はなく、Aはモニターに向かう。
　
「おはようございまーす、Aです」
　
波のように押し寄せるコメントを見、ゆっくりとまた口を開いた。

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