149名目 揺るがぬものXV ページ50
銀時にパラシュートをやり、俺はAを抱いて白バイに乗ると、かぶき町の郊外に降り立った。
完全に日が落ちるのを待ち、かぶき町に戻った。
小鞠庵が位置しているのがかぶき町のはずれで良かったと思う。
幸い、店の近くには幕府の犬もうろついていなかった。
窓から家に入り、まだ目覚めぬAを布団に寝かせた。
すると、ほっとしたのか、どっと疲れが押し寄せてきて、Aが目覚めるまで起きていようと固めた決意も虚しく、俺は眠りに落ちてしまった。
「……ろう、……太郎、小太郎、」
身体を揺さぶられ、はっとして目を開くと、目と鼻の先にAの顔があった。
部屋はまだ暗かった。
「ごめん、起こしちゃって。その、私、何が起きたのか、よく覚えてなくて……。もしかして、小太郎が助けてくれ……、っ!?」
不安げに語る女を力一杯抱き締めた。
「……こ……こたろ……?」
Aがここにいることを確かめるように、生きていることを確かめるように、ぎゅうっと抱き締める。
「ちょっ……痛い……」
少し腕の力を緩めた。
が、離れる気はない。
離れたら、また何処かにいなくなりそうだったから。
「恐ろしい思いをさせて……すまなかった」
返事を待たずに続ける。
「俺の不注意でお前を危険な目に遇わせてしまった……。俺は……お前に合わせる顔が……」
「だからこうやって抱き締めて、顔を合わせないようにしてるの?」
冗談めかした声が、弱々しい俺の言葉を遮った。
「……感謝こそすれど、責める気持ちなんて、これっぽちもないよ。だって、私がこうしていられてるのは、小太郎のおかげだもの」
「しかし、もしタッチの差で間に合わなかったら俺は、」
「間に合ったじゃん。それ以上に何が必要なの」
そっと抱擁を解き、Aを見た。
形のいい唇には、俺の好きな、あの淡い笑みが浮かんでいる。
「助けてくれて、ありがとう。……ね、また私に何かあった時は、助けてくれる?」
ほんの少し不安そうな色を滲ませて俺を見る、その表情がたまらなく愛しくて。
気づけば、またAを腕の中に収めていた。
「……当然だ。幼少の頃から、俺はそう決めていたさ」
揺るがぬもの。
「……もう二度と恐ろしい思いはさせん。そうならないよう、俺が……俺がお前を、護る……っ、だから、」
武士道以外にもう一つ、俺には揺るがぬものがあった。
「だから……この先もお前の隣にいさせてくれ」
お前への想いは揺るがない。
「──ずっと……惚れてるんだ、お前に」
十余年越しの告白だった。
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Physics(プロフ) - モモうささん» コメントありがとうございます!松陽先生視点の過去篇は力を入れて書いたので、そう言っていただけて嬉しいです!更新がゆっくりですが、これからも宜しくお願いします! (2017年6月30日 19時) (レス) id: 28db851a9c (このIDを非表示/違反報告)
モモうさ - 過去編の時の先生の回想シーンで、グッときた…。それに、桂が可愛い!「コタちゃんじゃない。かつ…」が、気に入りました! (2017年6月27日 23時) (レス) id: 15c04f38df (このIDを非表示/違反報告)
Physics(プロフ) - 獅子の子さん» ほんとですか?よかったです!ウブな感じに描きたい回だったので、グワッときてもらえているようで、ほっとしました! (2017年6月18日 21時) (レス) id: 28db851a9c (このIDを非表示/違反報告)
獅子の子(プロフ) - あ''ぁぁぁ、桂可愛いよ尊いよ! ちょっとこの回でグワッときました、グワッと(語彙力) (2017年6月18日 12時) (レス) id: d0488b3ee5 (このIDを非表示/違反報告)
Physics(プロフ) - マヨ方さん。さん» 綺羅凛子に笑っていただけてよかったです!相変わらずの亀足更新ですが、よろしくお願いします! (2017年6月9日 20時) (レス) id: 28db851a9c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Physics | 作成日時:2017年4月23日 18時