138名目 揺るがぬもの�� ページ39
「──こそこそしてないで、出て来てくださいよ」
その声に、外壁に背中をつけて、隠れていた俺の全身が粟立った。
「いるのは分かってます。私が小鞠庵を出てから、ずっと尾けていたでしょう？」
俺は隣のエリザベスを見た。
『ここまでのようです』
俺達は隠れるのをやめ、あの男の前に姿を晒した。
「……」
そこには、 この街に不釣り合いな洋装の男が、こちらを向いて静かに佇んでいた。
「やはり貴方でしたか」
前に会ったときと何ら変わらぬ様子で、彼は呟いた。
「……俺を覚えていたのか」
「ええ」
人の良さそうな笑みを浮かべて、居島殿は頷いてみせた。
「そんなことより、貴方は私に聞きたいことがあるんじゃないですか？なんでも答えてあげますから、おっしゃってみて下さい」
首の後ろで束ねられた亜麻色の髪がなびいた。
この男の前ではいかなる小細工も意味をなさないだろう。
「──貴様、何者だ」
単刀直入に訊ねた。
すると、居島殿は乾いた笑いを漏らし、
「ずいぶんはっきり訊くんですねェ。なら、私も──俺もはっきり答えさせてもらうよ。俺は、」
詐欺師だ、と。
台詞に似合わぬ、無害そうな笑みを湛えて、そう答えた。
「君だって、薄々気付いてたんじゃないのかな。彼女と違って君は鋭そうじゃないか」
彼女──A。
俺は我に返り、張り詰めた声を発した。
「Aに何をする気だ？否、Aに何をした？」
「ははは、熱くなっちゃって、そんなに彼女が大事かい？まあでもそうだよね、この事態はさ、君の彼女を慕う気持ちが招いたことなんだから」
俺のAを慕う気持ち……？この男は一体何を言って……。
しかし、それを問い質す前に居島は話題をすり替えてしまった。
「ところで、君は何をもって俺を怪しいと見極めたのかな？」
「……宇宙問題取扱所だ。あれは架空の組織だろ」
目を細めて、詐欺師はきゅうっと唇を吊り上げた。
「うん、そうだよ。あんな、お人好しな組織があるわけないじゃないか」
世の中の汚さを知り尽くした嘲弄を含む声だった。
「じゃあ、もう一個質問。君は小鞠庵の土地は不正入手した土地だって話を疑ったことはある？」
「っ、まさかッ……！」
「うん、あれも全部、ウソだよ」
一語一語噛み締めるように、居島は暴露した。
その真実に、頭を鈍器で殴られた心地がしてよろよろと後ずさる。
『桂さん、しっかり』
沈黙を貫いていたエリザベスが俺の背中を支える。
『何の為にそんなことを？』
俺の代わりにエリザベスはそう訊ねた。
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Physics(プロフ) - モモうささん» コメントありがとうございます！松陽先生視点の過去篇は力を入れて書いたので、そう言っていただけて嬉しいです！更新がゆっくりですが、これからも宜しくお願いします！ (2017年6月30日 19時) (
レス) id: 28db851a9c (このIDを非表示/違反報告)
モモうさ - 過去編の時の先生の回想シーンで、グッときた…。それに、桂が可愛い！「コタちゃんじゃない。かつ…」が、気に入りました！ (2017年6月27日 23時) (レス) id: 15c04f38df (このIDを非表示/違反報告)
Physics(プロフ) - 獅子の子さん» ほんとですか？よかったです！ウブな感じに描きたい回だったので、グワッときてもらえているようで、ほっとしました！ (2017年6月18日 21時) (レス) id: 28db851a9c (このIDを非表示/違反報告)
獅子の子(プロフ) - あ''ぁぁぁ、桂可愛いよ尊いよ！ ちょっとこの回でグワッときました、グワッと(語彙力) (2017年6月18日 12時) (レス) id: d0488b3ee5 (このIDを非表示/違反報告)
Physics(プロフ) - マヨ方さん。さん» 綺羅凛子に笑っていただけてよかったです！相変わらずの亀足更新ですが、よろしくお願いします！ (2017年6月9日 20時) (レス) id: 28db851a9c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Physics | 作成日時：2017年4月23日 18時
