134名目 小鞠庵の危機�� ページ35
現れたのは、あのスーツ姿の青年だった。
「お待ちしておりました、居島さん」
私があわてて腰を上げると、何故か小太郎も一緒になって立ち上がった。意味もなく咳払いを繰り返している。
すると、居島さんは私達を交互に見つめて、
「もしかして──お取り込み中でしたか？」
申し合わせたように、私達は激しく否定した。
「いえいえ、雑談していただけですからっ」
「いやいや、並んで座っていただけですから！」
居島さんは意味ありげな笑みを少しの間、浮かべていたが、ふと我に返り、頭を掻いた。
「そうだった、報告に来たんだった……。──松宮さん、今お時間よろしいですか？出来れば、お店の外でお話ししたいのですが」
〜〜〜〜
私と居島さんは喫茶室にいた。
茶屋の店主がコーヒーを飲むという何とも奇妙なことになっている。
私はカップをソーサーに置いて訊ねた。
「あの、居島さん、うちの店はどうなるんでしょう」
話を急かすのは誉められた行為じゃないけれど、早く結果を知りたくて訊いてしまった。
「はい、そうですね、ご報告させていただきます」
背筋を伸ばす彼に緊張が走る。永遠とも思える数秒の沈黙に、心臓が早鐘を打つ。
お願い──。
「これまで通り、お店を続けていただけますよ」
穏やかに微笑んで居島さんは言った。
たしかに言った。
全身の力が抜け、つめていた息が漏れた途端、一気に視界がぼやけた。
「……ありがとう、ございます、居島さん……」
着物の袖で目頭を押さえながら、テーブルに額が触れそうなほど深く頭を下げた。
「いいえ、私が彼等を説得できたのは、貴女の小鞠庵さんへの強い思いがあったおかげですから」
巧みに言葉を使いつつ、居島さんは１枚の紙を差し出した。
「こちら、今回の問題が解決したことを示す書類です」
紙には、『小鞠庵土地問題』と始めに印字されており、下に星人問題部部長の署名と判子、居島さんの署名と判子、立ち退きを求めた天人の署名とその隣に『了承します』と同じ筆跡で書かれている。
本当に解決したんだ──。
「信じていただけましたか」
「は、はい」
「よかった。──あ、もちろん、解決の代金は頂戴しませんから」
「え？」
居島さんは笑った。
「私の仕事は警察と同じようなもので、星々から徴収した税金で成り立っていますから」
なんならこれをお読みください、と言って、居島さんは宇宙問題取扱所のパンフレットをくれた。
それを読み終わる頃には、居島さんを疑う気持ちは、さっぱりなくなっていた。
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Physics(プロフ) - モモうささん» コメントありがとうございます！松陽先生視点の過去篇は力を入れて書いたので、そう言っていただけて嬉しいです！更新がゆっくりですが、これからも宜しくお願いします！ (2017年6月30日 19時) (
レス) id: 28db851a9c (このIDを非表示/違反報告)
モモうさ - 過去編の時の先生の回想シーンで、グッときた…。それに、桂が可愛い！「コタちゃんじゃない。かつ…」が、気に入りました！ (2017年6月27日 23時) (レス) id: 15c04f38df (このIDを非表示/違反報告)
Physics(プロフ) - 獅子の子さん» ほんとですか？よかったです！ウブな感じに描きたい回だったので、グワッときてもらえているようで、ほっとしました！ (2017年6月18日 21時) (レス) id: 28db851a9c (このIDを非表示/違反報告)
獅子の子(プロフ) - あ''ぁぁぁ、桂可愛いよ尊いよ！ ちょっとこの回でグワッときました、グワッと(語彙力) (2017年6月18日 12時) (レス) id: d0488b3ee5 (このIDを非表示/違反報告)
Physics(プロフ) - マヨ方さん。さん» 綺羅凛子に笑っていただけてよかったです！相変わらずの亀足更新ですが、よろしくお願いします！ (2017年6月9日 20時) (レス) id: 28db851a9c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Physics | 作成日時：2017年4月23日 18時
