103名目 いってきますの笑み ページ4
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「──ま、晋助様」
遠慮がちに肩を揺する手が、耳元で響く声が、俺の意識をまどろみの中から引き上げた。
目を開くと、まぶしい金髪が起きたばかりの俺の目を刺激する。
まばたきを繰り返す俺の顔を覗き込み、また子はまるで悪戯をした子供を叱るような口調で言った。
「晋助様、今は寝ちゃダメっス！地球に生活のリズムを合わせとかないと、あとあと辛くなるじゃないっスか」
もっともな意見に、心地いい眠りを邪魔された苛立ちを何とか抑え込む。
「それに、こんなところでうたた寝してたら風邪引くっス！寝るなら寝るで、ちゃんと布団敷いて寝ないとダメっスよ」
「……お前は俺を寝かせてェのか寝かせたくねェのか、はっきりしろよ……。ったく、勝手に部屋に入ってきやがって」
「す、すみませんっ、今度からは絶対に入らないっスから！寝顔を見詰めたりとかしないっスから！」
ペコペコと俺に頭を下げるまた子。
コイツは昔から妙に俺に献身的なので、むず痒い。
まあ、悪い気はしないのだが。
「そう言えば、晋助様はさっき、どんな夢を見てらしたんスか？なんか柔らかいお顔なさってたっスけど」
ふと、首を傾げながら言われて、俺は夢の内容をおぼろげに思い出した。
一番幸せだった──夢を掴もうとしていた頃の夢。
もう戻れないあの頃への郷愁に、胸の奥が締め付けられた。
そう──もう戻れないのだ。
どんなに願っても、夢にまで見ても、もう戻れない。
だから、俺は己が選んできた道の先へ進むしかない。
その先でたとえどんなに辛い未来が、誰が待ち受けていようとも。
今回の件で、そう強く思えるようになった。
それが、あの人の弟子であり、アイツの幼馴染である俺の役目だ、と。
「晋助様……？」
立ち上がった俺を、きょとんとまた子が見上げた。
「お前は、着いてこられるか、俺の行く道の先まで」
透き通った緑の瞳を見下ろして訊ねると、また子は歯を見せて輝くように笑った。
「もちろんっスよ！今さら何言ってるんスか！私は絶対に晋助様をひとりぼっちにはさせないっスから！」
男が顔負けの頼もしい台詞に、俺は薄く笑った。
が、続いた言葉にその笑みを消す。
「だから、元気出してくださいっス。きっと、いつかまた会えるっスよ」
『誰に』とはまた子は言わなかったし、俺も訊かなかった。
一度消した笑みを浮かべ直し、俺はまた子から視線を外す。
「……これからもよろしく頼むぞ」
「は、はいっス！」
嬉々としたまた子の返事を背中に受けながら、俺は自室を出た。
いってくる、______。
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Physics(プロフ) - モモうささん» コメントありがとうございます！松陽先生視点の過去篇は力を入れて書いたので、そう言っていただけて嬉しいです！更新がゆっくりですが、これからも宜しくお願いします！ (2017年6月30日 19時) (
レス) id: 28db851a9c (このIDを非表示/違反報告)
モモうさ - 過去編の時の先生の回想シーンで、グッときた…。それに、桂が可愛い！「コタちゃんじゃない。かつ…」が、気に入りました！ (2017年6月27日 23時) (レス) id: 15c04f38df (このIDを非表示/違反報告)
Physics(プロフ) - 獅子の子さん» ほんとですか？よかったです！ウブな感じに描きたい回だったので、グワッときてもらえているようで、ほっとしました！ (2017年6月18日 21時) (レス) id: 28db851a9c (このIDを非表示/違反報告)
獅子の子(プロフ) - あ''ぁぁぁ、桂可愛いよ尊いよ！ ちょっとこの回でグワッときました、グワッと(語彙力) (2017年6月18日 12時) (レス) id: d0488b3ee5 (このIDを非表示/違反報告)
Physics(プロフ) - マヨ方さん。さん» 綺羅凛子に笑っていただけてよかったです！相変わらずの亀足更新ですが、よろしくお願いします！ (2017年6月9日 20時) (レス) id: 28db851a9c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Physics | 作成日時：2017年4月23日 18時
