123名目 過去篇XIV ページ24
案の定、父親は激昂した。
「誰がここまで育ててきてやったと思ってんだ!!コイツはなァ俺がいねェとなんっにも出来ねェんだよ!!」
「それは貴方です。働きもしなければ、家事もせず、全てAさんにやらせている。その上、独りになりたくないと駄々をこねて彼女を家に縛りつけ、自由を奪っている。貴方は娘さんに依存し過ぎです」
「クソッ──!!」
いきなり父親は立ち上がると、酒の山から古びた刀を取り出した。
「お父さん!!やめて!!お願いだから……!!」
悲鳴を上げてAが父親を止めようとするのを、着物の裾を引いて制する。
心配そうに私を見下ろす彼女に、大丈夫、と首を振る。
そのやり取りに、父親は盛大に舌打ちをした。
「お前は実の父親よりも、この胡散臭ェ男と暮らす方がいいのかよ?」
「わ……私は……」
Aは俯きかけた顔を敢然と上げ、答えた。
「昔のお父さんと暮らせないなら、先生と暮らしたいよ」
「ッ!!」
その時、父親が抜刀した。
しかし、刀身が露になることはなかった。
チン、と。
私が目に見えぬ速さで抜いた刀を、目に見えぬ速さで鞘に納めた音。
「な……」
父親の刀が柄の下辺りで、真っ二つに折れた。
「物騒なものはしまってください。私はAさんと約束したのです。この場にいる誰も傷付かせやしないと。その約束を私に破らせないで下さい」
父親の手から、刀が落ちた。
その直後、彼も畳にへたりこむ。
その姿に先刻までの覇気はなかった。
しばらくして、掠れた声で父親はこぼし始めた。
「……お前にゃ分からねェだろ……。大事な嫁さんを自分のせいで失い、挙げ句の果てに娘まで失いかけてる……この俺の気持ちが」
ああ、そうか。こんなにもこの人を許せないのは、きっと──昔の私を彷彿とさせるからだ。
「分かりますよ。私も大切な教え子を己の至らなさ故に失ったことがありますから」
目を伏せ、私は私の一番弟子の名を心中で呟いた。
あの時、私は決めたのだ。
もう二度と教え子を失いはしない、と。
私は父親に視線を戻すと、正座した膝の前に手をついた。
「お父さん、改めてお願いがあります」
それから、ゆっくりと頭を下げる。
「Aさんを私に護らせて下さい」
返事を待たずに言葉を重ねる。
「Aさんの望み通り、貴方が昔の貴方に戻った暁には必ずお返しします。ですから、それまでの間、どうか私に護らせて下さい」
父親は激昂もせずに、黙っていた。
──結局、私がAの手を引いて去る時も父親は何も言わなかった。
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Physics(プロフ) - モモうささん» コメントありがとうございます!松陽先生視点の過去篇は力を入れて書いたので、そう言っていただけて嬉しいです!更新がゆっくりですが、これからも宜しくお願いします! (2017年6月30日 19時) (レス) id: 28db851a9c (このIDを非表示/違反報告)
モモうさ - 過去編の時の先生の回想シーンで、グッときた…。それに、桂が可愛い!「コタちゃんじゃない。かつ…」が、気に入りました! (2017年6月27日 23時) (レス) id: 15c04f38df (このIDを非表示/違反報告)
Physics(プロフ) - 獅子の子さん» ほんとですか?よかったです!ウブな感じに描きたい回だったので、グワッときてもらえているようで、ほっとしました! (2017年6月18日 21時) (レス) id: 28db851a9c (このIDを非表示/違反報告)
獅子の子(プロフ) - あ''ぁぁぁ、桂可愛いよ尊いよ! ちょっとこの回でグワッときました、グワッと(語彙力) (2017年6月18日 12時) (レス) id: d0488b3ee5 (このIDを非表示/違反報告)
Physics(プロフ) - マヨ方さん。さん» 綺羅凛子に笑っていただけてよかったです!相変わらずの亀足更新ですが、よろしくお願いします! (2017年6月9日 20時) (レス) id: 28db851a9c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Physics | 作成日時:2017年4月23日 18時