三十九 ページ9
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「なんでじゃあ〜陸奥〜」
船内に坂本の声が響いた。
「いかんぜよ」
陸奥はきっぱりと言い放った。
その様子を見て、Aは困ったような顔をした。
「お姉ちゃん、私は別に大丈夫だよ」
「いや、駄目じゃ」
陸奥が断固として首を縦に振らないのには、理由があった。
それは坂本の
「艦長室でAと一緒に寝るぜよ」
という発言が問題だった。
「さっきは許すってえ…」
「それとこれとでは話は別じゃ」
常日頃、女遊びの多い坂本を見てきている陸奥は、Aと部屋で二人きりにさせることに対しては不満でならなかったのだ。
そんな時、Aは陸奥の服の裾をちょんちょんと引っ張った。
「お姉ちゃん」
そう言ってAは耳打ちする。
「私が可愛くて可愛くて仕方ないんだろうけど、流石にもう私も大人だから、分かってるって」
「可愛…」
「お姉ちゃんもだいぶシスコンだよね」
Aは歯を見せてにっと笑う。
陸奥は不意打ちにAに突かれた発言をされ、眉間に皺を寄せた。
その様子を見て、
「坂本さん、お姉ちゃんいいって」
「本当にええんか!?」
きらきらとした笑顔で真っ直ぐ見つめる坂本と、してやったりというAに、諦めたのか
「勝手にしろ」
投げやりに陸奥は答えた。
艦長室に連れて行くと坂本とAは足を向ける。
通りすがりに
「過度な接触があろうもんなら、いつでもふぐりぶち抜くからな」
と陸奥は坂本に釘を刺した。
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(さて、どうしたもんかの)
正直、坂本はAの気持ちがよく分からなかった。
坂本より年下だが、全く物事が分からない子供ではない。
背丈が小さいだけで、もうある程度のことは分かる大人なのである。
「流石、艦長室ですねえ。広いやあ」
Aは陸奥から預かった布団を床に置きながら、きょろきょろと辺りを見渡す。
「坂本さん、ちゃんと艦長してるんですね」
「どういう意味じゃそれ」
くすくすと笑うAに笑みを返した。
Aは外の様子が見える丸窓から外を覗く。
小さな背中を見て、傍に駆け寄る。
屈むようにして、同じ外を見る。
「夜も星と海が一緒に見えて綺麗ですね」
窓に反射して、口を開けて嬉しそうに外を眺めるAが映る。
(これくらいなら、いいじゃろう)
坂本はAを包むようにして抱き締めた。
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作者名:Nattu | 作成日時:2021年1月27日 2時