四十五 ページ15
急に雨に降られ、Aは雨宿りをしていた。
そんな時、
「Aちゃん」
「あっ、九兵衛君」
雨傘をさす九兵衛に出会す。
九兵衛はAに雨傘に入るよう促し、濡れた身体を乾かす為、柳生家へと一時的に避難するよう案内してくれた。
すっかり濡れてしまった着物を九兵衛に手渡し、道場を訪れていた。
「君はなかなか強そうだな」
道場にある竹刀を見ていると、晒し姿のAを見て九兵衛は言った。
「なんとなく君は強いんじゃないかと思っていたけれど、その身体の筋肉の付き方や傷跡。色々やり合った跡じゃないのかな」
Aが見ていた竹刀を手に取り、
「君の着物が乾くまで、僕に付き合ってほしい」
剣先をAに向け、眉を上げた。
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「っと…」
九兵衛に竹刀の持ち方や基本の戦い方を教えて貰い、一戦交えていた。
「Aちゃんは飲み込みが早いな。僕の思った通りだ」
試合は白熱としていて、どちらも一歩も譲らずといった様子だった。
竹刀を握りながら、ふと思う。
(銀さんと坂本さんは、こうやって剣を振っていたのかな)
「隙あり」
「ぅわ…!!」
剣先が鼻先を擦り、一矢免れる。
そこで九兵衛の動きは止まった。
「Aちゃん、余所見は良くないぞ。あと少しのところだったな」
互いに竹刀を腰に戻し、一礼した。
試合後、九兵衛はお茶を入れてくれた。
そして眼帯を外す。
彼の目にも同様に大きな傷があった。
「僕も君と同じなんだ。だから話してみたいと思っていた」
そう言ってにこりと笑う。
「僕は妙ちゃんの為なら、何だってする。君も大事な人を守るために失ったんじゃないのか」
Aは九兵衛の問いかけに、過去を思い出し、こくりと縦に頷く。
同時に、Aも九兵衛に問いかける。
「九兵衛君は、お妙さんのことどれくらい好きなの」
直球の質問に九兵衛は顔を沸騰するんじゃないかと思えるくらいに赤く染めた。
「一方的に片想いをしている僕が言えることじゃないけれど、妙ちゃんをもっと知りたいし、ずっと一緒にいたいってくらいに好きだよ」
九兵衛は照れたように笑い、頭を搔いた。
「さっき戦ってみて思ったんだ。君は何かに迷ってるんじゃないのか。…今の話からするに、色恋で」
「試合でわかるもんなの?」
誤魔化すようにしてAが笑えば、
「分かるよ。一戦やり合えばね」
と九兵衛は意味ありげに微笑んだ。
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作者名:Nattu | 作成日時:2021年1月27日 2時