三十弍. 着せ替え編 ページ2
いつものようにひの屋で働いている時だった。
「私に好きな人?」
常連客の一人がそうAに問いかけたのだ。
「だってこの前、バレンタインに私達に手作りのお菓子くれたじゃない?本命を作るついでかと思って」
「へ?本命…?」
月詠達もそうだったように、お世話になっている人にお菓子を渡すイベントだとAは思っていたようで。
頭の上には疑問符を浮かべている。
「Aは知らんかったようじゃの。本来は好きな奴にお菓子をあげるイベントじゃ」
「えっ色恋のだったんですか…あ、だからハートの形のものが多かったのか」
一人納得したように、声を上げる。
何かに気づいたようだ。
「ってことは、月詠さんもあげた中に想い人いたんですか?」
「んな!!?わっちには想い人などおらん!!」
「Aもなかなか鋭いわねえ」
「日輪黙りんす!」
慌てる月詠を見て、不思議そうにAは首を傾げた。
「Aはどんな人が好きなの?」
「ん〜…考えたことなかったです。一緒に居て安心する人とか」
「ざっくりとしてるわねえ。ここで働き出して、少しばかり経つけどどうだい。何かどきっとしたなあってことあったりしなかったの?」
からかうようにはははと常連客は笑う。
まさかAに限ってといったような反応だ。
それもそのはず。
前髪が長く伸びていて、切りっぱなしの髪。
ある程度の清潔感があるものの洒落っ気というものがなかったのだ。
「バレンタインを知らなかった子だからねえ」
「………」
「え?A??」
少し黙ったかと思えば、赤くなる頬。
髪から少ししか出ていないとは言え、それでもわかるくらいに赤面し、耳まで赤く染まっていた。
「えっ…A、ほんとに?」
意外な反応に戸惑いを見せる客。
反して日輪はにやにやとしながら、Aに近づいて肩をぽんと手を置く。
「へえ〜バレンタインの時も言ったけど、なかなか隅におけないこだねえ」
「わ、私だって心はあるんですよ。どきっとすることくらいあります」
「ふうん。どんな奴がこの子をときめかせたのかねぇ」
「...A、ゴムはちゃんとするんじゃよ」
「いや月詠姉、段階早すぎるよ!」
タイミング良く、別の客が注文を仰ぐ。
Aは誤魔化すようにぱたぱたと足音を立て、注文を受けにいく。
「あ、逃げた」
月詠は注文を受け帰ってきたAをそのまま捕まえた。
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作者名:Nattu | 作成日時:2021年1月27日 2時