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【銀時】




「あれ、もう先に食べてたの?」



「主には我慢ということができんのか」



「来て早々うるせぇな」



今日は日輪と月詠に会うことになっていた。
この甘味処を選んだのは俺だ。
地上での、Aとの思い出の場所だから。


Aは俺に手紙を残してこの世を去った。
自ら命を絶ったとはいえ、あいつはこの世に絶望して命を絶ったわけではない。
幸せのまま最後を迎えたかった、ただそれだけだ。



理由はどうあれ最後に幸せだと思ってくれていたことが俺にとっての救いだ。
あいつの人生を変えてやれたんだ。
不幸だと思わず、自分に誇りを持ってくれたんだ。
それだけでも、俺はAのために力になれたってことだろ?



「銀さん、これ」



日輪は風呂敷を取り出した。
俺はそれを受け取り布の結び目を解いた。
布を広げたそこには懐かしいものがあった。



「俺があげたやつだ」



「彼女の部屋を整理していたら出てきたの。とっても大切そうに保管されていたよ」



風呂敷の中には綺麗に折りたたまれたスカーフと簪が入っていた。
簪は初めてAに贈ったプレゼントだ。
そしてスカーフは初めて2人で地上を出掛けたあの日、俺がAにあげたもの。



「流石俺が惚れた女だ。最後の最後まで惚れ直させやがって」



「銀さん……改めて言わせて。本当にごめんなさ────」



「それは言わねぇ約束だろ」




俺は日輪の言葉を遮った。
日輪たちはAの死因を自分たちのせいだと思っている。
そして俺を巻き込んでしまったと嘆いていた。



「あいつは自ら死を選んだんだ。そんでもって、幸せなまま死ねたんだよ」



本当に安らかな表情だった。
あんなに美しい死人を見たのは初めてだと思う。




「Aを休ませてやってくれ」



人生の大半を遊女として生きてきたA。
だが最後は遊女としてではなく、1人の女として俺を愛し、俺に愛された。


俺には分かる。
Aの死は決して嘆くものではない。
あいつの生き様は立派なものだった。
今頃天国で笑ってんだろうよ。
────────ごく普通の女として。



「………さて、2人もなんか頼めよ。ここのきんつばくっそうめぇから食ってみろ」



「そうね。食べようかしら」



「……そうじゃな」





俺もしれっときんつばを再び頼んだ。
そして、それを上品に二つに割って食べた。

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八重菊(プロフ) - コメントをさせていただきます。もうホンマに、マジで泣きました。ここまで泣いた作品は初めてです.........!素晴らしい作品をありがとうございます! (2020年8月15日 1時) (レス) id: 4b3ed537f2 (このIDを非表示/違反報告)
りなりー - ものすごく心に残るお話でした。来世で必ず一人の女の子として、銀さんと幸せになってほしいと思いました。 (2020年4月25日 16時) (レス) id: 6dff351985 (このIDを非表示/違反報告)
Leaf(プロフ) - 45話読んだときは、「紅薔薇太夫!何で!?」って思った。でもその後の話を見てたら、何だか腑に落ちた。幸せなまま…… すごくいいお話でした。 (2019年1月3日 16時) (レス) id: b8ce9cd4fa (このIDを非表示/違反報告)
Leaf(プロフ) - 泣いた。いやめっちゃ泣いた。 (2019年1月3日 16時) (レス) id: b8ce9cd4fa (このIDを非表示/違反報告)
瑠々亜(プロフ) - ハニーさん» コメントありがとうございます。愛着湧いてしまった夢主ちゃんだったからこそ、早く解放してやらなきゃな…という使命感に駆られてこうなりました笑 (2018年12月10日 3時) (レス) id: 95173b8ff8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:瑠々亜 | 作成日時:2018年10月27日 14時

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