吉原遊女紅薔薇太夫物語

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【銀時】



Aの殺した客を綿密に調べたのはかれこれ２週間前に遡る。
なぜ大量の殺戮を繰り返すAが百華によって処罰されないのか。


様々な理由が思い浮かべられるがまず第一に着目したのがAが今は吉原一の花魁であることだ。
目玉を処罰されては吉原の経済が運営されない。
客引きだけでもAは他の遊女より圧倒的に差が出るという。


だが吉原でも遊女たちのAへの不満は決して少なくは無かった。
容姿だけでなく他人に媚びようとしないその気高き姿に古株の遊女たちは嫉妬心を抱いた。
またAは日輪からも一目置かれた存在だ。
吉原にいてもAには嫌がらせが続いたという。


俺はひたすら真相を探した。
このまま殺戮を続けられ、Aが処罰されることが嫌だったんだろう。
俺は日輪たちからも話を聞き出した。
すると一番の理由を月詠は話した。



『紅薔薇太夫の殺した客はどの道わっちらが処罰するはずの人物じゃった。吉原の掟に背いたものは吉原の裁きによって処罰される。言い換えるなら紅薔薇太夫はわっちらの仕事をしたと言うことじゃ』



麻薬の売人や人身売買をしている金持ち。
そいつらは恐らくAを振り向かせようとA本人に話をしたのかもしれない。
Aはだからこそ処罰対象を知っていた。
そして、その客を殺した。



『でもね銀さん、それだけじゃない。ここのところ禿に手を出そうとする変態が増えているの。前にも1人の禿が無理矢理襲われそうになったんだよ』



『襲われそうに？未遂だったのか？』



『寸前のところで紅薔薇太夫が殺したらしい。禿から紅薔薇太夫は何も悪くない、命の恩人だと伝えられた』



Aを支持する者の多くが禿だった。
今になったらよく分かる。
Aは4歳で35人の男に悪夢を見せられた。
その後も禿の身でありながら遊女からのいじめ、底なしの欲を持つ男達によりおかされ続けた。


そんな自分と同じ苦しみを禿だけには味わせたくなかったんだろう。
まじでAは馬鹿だ。
世界を恨んでおきながら、自分と同じ道を辿らないよう少女たちを守ってきた。
自分が殺されても可笑しくないのに。



『ねぇ、銀さん』




日輪のあの言葉を俺は忘れない。




『紅薔薇太夫を、許してあげてね』

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