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【NORMAL】
銀時は客間へと通された。
だが内装を見て目を見開く。
この宿屋は昔日輪が使っていた場所だ。
つまり最高位の遊女が居座る部屋である。
そこに4ヶ月あまりで君臨した紅薔薇太夫はただ者ではないと思った。
「お初にお目にかかります」
また部屋に入ってすぐに出迎えた遊女は、先日名簿で見た紅薔薇太夫だった。
だが名簿の写真とはまるで違う。
この世の者と言うのならば、それはもはや何で例えようか言葉に出来ない。
天女、それとも────────悪魔か。
「悪りぃな。俺みてぇな貧相な客の相手させてよ」
銀時は腹を掻きながら紅薔薇太夫の隣に腰を下ろした。
紅薔薇太夫は微笑み真っ直ぐに銀時を見つめた。
「はて…わたくしにはそのように見受けられませんが?」
「普段はもっと上客を相手してんだろ?」
「殿方様が貧相だと言うのならばこの世の男は面目が立ちません」
紅薔薇太夫はそう言って銀時の手に触れた。
視線を銀時の顔ではなく胸元に移す。
言葉の意味は理解していた。
だがそれを巧みに違う形で返す。
家柄、財力、権力。
銀時はそれら全てこれまで来た上客の足元にも及ばないだろう。
しかし銀時のような鍛え上げられた身体は決して貧相なものでない。
侍としての生き様が身体で感じ取れた。
「これじゃあナンバーワンになるのもわけねぇな」
銀時は思わず苦笑した。
猪口を差し出すとすかさず紅薔薇太夫は酒を注いだ。
「坂田様のお話は日輪様からお窺いしました。この吉原をあの夜王鳳仙から解き放った英雄だとか」
「へぇ、随分と褒めてくれるじゃねぇか。日輪のやつ、ちったァ俺の前で言ってくれたっていいのにな」
「あまり言われてはその功績を軽率に思えてしまうでしょう?付け上がらない程度に、適度に称えるのが一番です」
銀時は酒を飲んだ。
ふぅ、と息を吐き酒の旨みを堪能する。
なんてことない他愛もない話をしたがあくまでもこれは上辺だ。
銀時は猪口をお膳に置いた。
「なぁ、紅薔薇太夫さんよ」
「あら、その名をご存知なのですね」
「そりゃ行き交う連中皆あんたの噂をしているしな」
銀時は紅薔薇太夫の顎に手を添えた。
そのまま視線を交え、じっと紅薔薇太夫の瞳を見つめる。
そしてこれまで見せていた愛想笑いを止めた。
「そろそろ、見え透いた演技は良さねぇか?お前も、俺も」
その瞬間、これまで微笑んでいた紅薔薇太夫から笑みが消えた。
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八重菊(プロフ) - コメントをさせていただきます。もうホンマに、マジで泣きました。ここまで泣いた作品は初めてです.........!素晴らしい作品をありがとうございます! (2020年8月15日 1時) (レス) id: 4b3ed537f2 (このIDを非表示/違反報告)
りなりー - ものすごく心に残るお話でした。来世で必ず一人の女の子として、銀さんと幸せになってほしいと思いました。 (2020年4月25日 16時) (レス) id: 6dff351985 (このIDを非表示/違反報告)
Leaf(プロフ) - 45話読んだときは、「紅薔薇太夫!何で!?」って思った。でもその後の話を見てたら、何だか腑に落ちた。幸せなまま…… すごくいいお話でした。 (2019年1月3日 16時) (レス) id: b8ce9cd4fa (このIDを非表示/違反報告)
Leaf(プロフ) - 泣いた。いやめっちゃ泣いた。 (2019年1月3日 16時) (レス) id: b8ce9cd4fa (このIDを非表示/違反報告)
瑠々亜(プロフ) - ハニーさん» コメントありがとうございます。愛着湧いてしまった夢主ちゃんだったからこそ、早く解放してやらなきゃな…という使命感に駆られてこうなりました笑 (2018年12月10日 3時) (レス) id: 95173b8ff8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:瑠々亜 | 作成日時:2018年10月27日 14時