32 ページ32
【A】
「………なぜ、抵抗しないのですか」
沈黙の中、震えた声で私は言った。
銀時様はそんな私を静かに見上げ、とても殺される寸前とは思えないほど穏やかな表情をしていた。
その光景に腹が立った。
「わたくしには貴方を殺す力がないと思っているのですか」
これまで"殺してきた"連中も皆最初は冗談だと思っていた。
だが私はいつだって本気だ。
私は復讐のために生きてきた。
そして銀時様は、そんな私の復讐劇の邪魔者でしかない。
出会ったあの日から彼には全てがお見通しだった。
私の復讐劇の邪魔をして、あまつさえ─────私の心を動かした。
「A」
銀時様の低い声が私の名を呼んだ。
銀時様は私の頬に手を添える。
嫌だ…この体温は嫌いだ…
銀時様といると築き上げた"紅薔薇太夫"がいなくなってしまう。
「……わたくしが本気でないと高を括っているのですね」
「んなこと俺がすると思ってんのか?殺したきゃ好きにしろ。俺が今さら死に恐れを抱くはずもねぇ」
「……ならばなぜ────────」
すると銀時様は片方の手で私の手を掴み、短刀をさらに自分の首へ押し付けた。
手を離そうとするも強く握られた手は決して離してくれなかった。
「銀時様っ…なにを」
「お前になら、惚れた女になら殺されても構わねぇよ」
銀時様の言葉の意味が一瞬理解できなかった。
目を見開き思考が停止してしまう。
だが理解した時にはもう────────涙が止まらなかった。
銀時様の顔に私の涙が落ちる。
銀時様は静かに私の手を離した。
体温が無くなったかと思いきや、今度は全身が温まる。
何度男に抱かれようと、何度男に愛を囁かれようと、この温もりを感じることは無かった。
「……っ…………めて……やめて、ください…」
「やめねぇよ」
銀時様は邪魔者でしかない。
だから私は彼を消さなければならなかった。
銀時様のせいで私はおかしくなってしまったのだから。
殺戮もせず、男に抱かれることを拒んだ。
それでは"紅薔薇太夫"では無くなってしまう。
私たちは出会ってはいけなかった。
なのに。
「愛していますっ……銀時様……」
私は銀時様を殺せなかった。
私は銀時様を愛してしまった。
490人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「銀魂」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
八重菊(プロフ) - コメントをさせていただきます。もうホンマに、マジで泣きました。ここまで泣いた作品は初めてです.........!素晴らしい作品をありがとうございます! (2020年8月15日 1時) (レス) id: 4b3ed537f2 (このIDを非表示/違反報告)
りなりー - ものすごく心に残るお話でした。来世で必ず一人の女の子として、銀さんと幸せになってほしいと思いました。 (2020年4月25日 16時) (レス) id: 6dff351985 (このIDを非表示/違反報告)
Leaf(プロフ) - 45話読んだときは、「紅薔薇太夫!何で!?」って思った。でもその後の話を見てたら、何だか腑に落ちた。幸せなまま…… すごくいいお話でした。 (2019年1月3日 16時) (レス) id: b8ce9cd4fa (このIDを非表示/違反報告)
Leaf(プロフ) - 泣いた。いやめっちゃ泣いた。 (2019年1月3日 16時) (レス) id: b8ce9cd4fa (このIDを非表示/違反報告)
瑠々亜(プロフ) - ハニーさん» コメントありがとうございます。愛着湧いてしまった夢主ちゃんだったからこそ、早く解放してやらなきゃな…という使命感に駆られてこうなりました笑 (2018年12月10日 3時) (レス) id: 95173b8ff8 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:瑠々亜 | 作成日時:2018年10月27日 14時