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【銀時】
俺は紅薔薇太夫をこじんまりとした甘味処へ連れて来た。
紅薔薇太夫にとってこうした店は初めてだ。
こいつは外の世界を知らなさ過ぎる。
だからこそこうして外へ連れ出す必要があった。
「ここのきんつばめっちゃ上手くて有名なんだけど食うか?」
「頂きます」
紅薔薇太夫はそう言いながら先程届いたばかりのお茶を啜った。
こういう姿見ると本当に普通の女にしか見えねぇ。
店内には客はすくねぇがそれでも人目を引くこいつを見ると改めて吉原一の遊女であることを実感した。
「ほら、食いな」
俺は届いたきんつばを紅薔薇太夫に渡した。
紅薔薇太夫は細く爪の先まで綺麗な手で楊枝を掴み、きんつばを二つに割った。
しなやかに食べる姿を見てふと思う。
「お前さ、礼法とか習ってた?」
「階級によって習う礼法も異なりますが遊女なら一通り教え込まれます」
「だからか。なんつーかいつも見てて思うんだよな。お前すっげぇ上品だし地上で見るとどこぞのお嬢様って感じがする」
「この世で一番低下層な職種ですがそれは安心しました」
紅薔薇太夫の言う通り、遊女の扱いなんてそんなもんだ。
世間ではあまり認められておらず見下される人種。
だが俺は知っている。
吉原の遊女だろうがどこの女だろうが何一つ変わらねぇ。
酒飲んで好きに笑ってバカやる。
そんなの地上でも地下でも同じだ。
「紅薔薇太……あー、ここでそう呼んだらまずいな」
「A」
「え?」
俺はきょとんとしたまま瞬きを繰り返した。
予想外の展開に頭が追いつかねぇ。
けど紅薔薇太夫は柔らかい表情のまま教えてくれた。
「A、それが私の真名です。と言っても、もう随分とこの名を教えたことも呼ばれたこともありませんが」
紅薔薇太夫の表情が一瞬だけ曇った。
────────あぁ、まただ。
どうしてこんなにも影かかった表情を見せるのか、俺はそれが知りたかった。
「A」
俺は紅薔薇太夫の真名を呼んだ。
教えてくれたってことは少なからず俺への警戒心は解かれつつあるのだろう。
呼ぶのも呼ばれるのも慣れなくて、俺達は妙な緊張感があった。
だが"A"は答えてくれた。
「何でしょうか、銀時様」
すっかり忘れた感情が俺の心に宿っていた。
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八重菊(プロフ) - コメントをさせていただきます。もうホンマに、マジで泣きました。ここまで泣いた作品は初めてです.........!素晴らしい作品をありがとうございます! (2020年8月15日 1時) (レス) id: 4b3ed537f2 (このIDを非表示/違反報告)
りなりー - ものすごく心に残るお話でした。来世で必ず一人の女の子として、銀さんと幸せになってほしいと思いました。 (2020年4月25日 16時) (レス) id: 6dff351985 (このIDを非表示/違反報告)
Leaf(プロフ) - 45話読んだときは、「紅薔薇太夫!何で!?」って思った。でもその後の話を見てたら、何だか腑に落ちた。幸せなまま…… すごくいいお話でした。 (2019年1月3日 16時) (レス) id: b8ce9cd4fa (このIDを非表示/違反報告)
Leaf(プロフ) - 泣いた。いやめっちゃ泣いた。 (2019年1月3日 16時) (レス) id: b8ce9cd4fa (このIDを非表示/違反報告)
瑠々亜(プロフ) - ハニーさん» コメントありがとうございます。愛着湧いてしまった夢主ちゃんだったからこそ、早く解放してやらなきゃな…という使命感に駆られてこうなりました笑 (2018年12月10日 3時) (レス) id: 95173b8ff8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:瑠々亜 | 作成日時:2018年10月27日 14時