鉢植え 2 (ページ23)

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佐久間side

葬式のあと帰ってきて零した「もう嫌だ」の意味も、時折苦しそうな顔をするのも、遠いどこかをじっと眺めるようになったのも、全て繋がった。

ふっかは最後に大きな役目を任していたんだ。

夕方のいい時間になって、帰ろうと照の家から出る時、玄関先で、彼は教えてくれてありがとうな、と言った。言った照も、言われた阿部ちゃんも互いの表情は少しだけ晴れたように見えた。

「お疲れ様、阿部ちゃん。」

阿「やっと、肩の荷が降りたよ。」

夕日に染まった帰り道を、近くの大きな通りまで二人で歩く。

阿部ちゃんは照に、また来るね、と言った。
俺はそれを言えなかった。

阿「佐久間は、またねって言わなくなったね。前はあんなに言っていたのに。」

お風呂上がりの体温とボディーソープの香り。くっつくのには暑い時期になった。

バスタオル越しに頭をがしがしと拭かれながら、阿部ちゃんの声が聞こえる。

「あー、」

痛いところを突かれた。俺はあれから、「またね」と言えなくなっていた。

前は「また」があることを信じていたから、誰かにあった帰りには必ずって言っていいほど使っていた。

でも、来ない「またね」があることを知った。

「また」を信じなくなった。
だから、言えなくなった。

その「また」は、来ないんじゃないかって怖くて。

「…阿部ちゃんには、全てお見通しだね。」

阿「佐久間のことはよく見てるからね。」

カチッとドライヤーのスイッチが上げられて、温風に髪がなびく。モーターの音をバックに、頭が考え事を始める。

ちゃんと来る「また」があったら、それが積み重なったら、「また」の事を信じられるのかな。

阿「照の家に行った時、鉢の様子を見て本当に怖くて。照、元気だよね？って。」

ドライヤーの音の合間に、阿部ちゃんが話す声が聞こえる。

「なんかさ、…こんな生きづらかったっけ。」

あの日の出来事は、確実にそれぞれの世界の見方を変えていた。

肌で感じる空気も、
流れる時間も、
生きることに対する考え方も。

阿「…みんなで支えあって生きれたらさ、少しは生きやすくなるかな？」

「どういうこと？」

温風が止まる。

阿「…シェアハウスとか、どうだろう。」

その言葉に後ろを向けば、視線を落として、ドライヤーのコードを指が弄んでいた。