千と千尋の神隠しより「千尋とハクは許婚！？」part11

昔の恋路 ページ33

「自分は私の許嫁だったと告白しました。そして、記憶を消された私に蛇神と月神、龍神一族との複雑な絡み合いを説明した。
…正直、私に恋心は無かった。だけど当時の彼は心に闇を抱えていて…強引に術を使って私の心をすり替えた。私の許嫁だった琥珀は謀反により湯屋にて激しい戦火を目の当たりにしている最中でした。…その事実をルイは私に伝えて…私は命からがら湯屋へと向かい…そして…琥珀と再会した私は、翌日には蛇神の捕虜になることを察していました。…争いの訳は私自身だったのですから。…そして私は記憶を消され、彼の妻になりました」

…ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ私だったが、ルイは顔を上げなかった。
彼の妻はというと、私の方をじっと見つめ、次はどんな事実が語られるのかと覚悟しているようだった。

「…前夜、龍の護りを受けていた私に彼は逆上すると、毎晩激しく私を抱きました。
……無論、身体は正直で…心のそこから嫌ではなかったのが事実です。…何度も何度も身体を重ねた私達は、仲が良いわけでもなく悪いわけでもなく。そんな日常が続いていた。

…ここまでで何かご質問は？」

これからがいちばん辛いのだ。
一度心を休めようと言葉を切った。

「…その生活の間、子は出来なかったのですか？
その言い方では避妊をしていたわけではないでしょう？」

「龍の護りを受けると蛇神の子は産めないので」

「…あの時は投げやりで子作りしようとしていたけれど。千尋を縛り付けていられるのはそれだけだから」

ルイが口を開いた。
あまりにも悲しげな物言いで、心に引っ掛かった。

「…その後、琥珀の娘である花が蛇神屋敷に送り込まれて。続けて琥珀の妻であった桜も。…花と桜は亡くなりました。…私が、不倫のような真似をして琥珀を選んだから。全ての記憶は琥珀によって取り戻されました。そして、私はあの屋敷から逃げ出した。」

「…千尋。一つだけ訂正が」

「？」

「…僕は、あの時、花を生かしておいた」

衝撃的な事実が語られた瞬間、広間の、大きな扉の向こう側から何かが床に打ち付けられるような音が響いた。
直後に広がるざわめき。
…何かあったのだろうか？
女官達が慌てて廊下を駆け巡る音がする。
私は、二人に軽く目配せをして扉の向こうまで歩いてゆくと、廊下側を覗き込んだ。

「えっ……ハク…」

倒れ込んでいるのは、ハクだった。
慌てた様子で何やら連絡を取り合い、医者の手配をしているであろう女官達を尻目に、私は彼に駆け寄った。

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