番外編2-2 (side.K) ページ23
「な、ななななな────」
「うん。とりあえず落ち着け。俺が言えたことじゃないけど……」
口をパクパクさせて何かを必死で訴えようとするA。
そのあまりの狼狽っぷりに、俺は逆に余裕が戻ってきて苦笑いを浮かべた。
「なにをコソコソしてるのかと思ったら。そのクッキーが食べたかったんだな」
「〜〜〜〜〜〜っ!!!」
一瞬でAの顔が真っ赤になった。
その様子に思わず吹き出しながら、そういえばβの時からそうだったなと思い出す。
古武道を駆使して予測不可能な、それでいて熟練した技を繰り出す彼女は、モンスター相手の通常戦闘はともかく、PvP戦では無類の強さを誇る。
それで結構有名になり“武士”っぽいイメージがついてしまったので、こういう素の部分──女の子らしく甘いお菓子が好きなところなどを隠したがるのだ。
どうもA自身が、こんなの自分には似合わないと思い込んでいるふしもある。
(俺は、そんなことないと思うんだけどな……)
でも言わない。
彼女にも、他のプレイヤーにも。俺が主張することで知れ渡ったら嫌だから。
……その理由は子供っぽく恥ずかしいモノだから、口が裂けても言えないけれど。
「き、キリトお願い。このことは内緒に……」
「うーん。どうしようかなー」
言いふらす気はさらさらないが、いらん勘違いをして焦ったのが少々癪で、意地悪く笑ってやる。
するとAは悔しげにこっちを睨みつけて────
「わかったよ! 口止め料!!」
「むぐっ!!?」
大事そうに抱えていた袋からクッキーを取ると、俺の口に押し込んできた。
「それあげるから絶・対・に! 誰にも言わないでね!!!」
「………………」
むぐむぐと時間をかけてクッキーを咀嚼し、きちんと飲み込んでから。
俺は、だんだんと涙目になってきていたAににっこり笑いかけた。
「ああ。誰にも言わない」
「〜〜〜〜〜〜っ、返事するのが遅い!!!」
「いやだって、このクッキー美味いからさ。限定販売だったみたいだし味わって食べないと」
「〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!」
もういいっ、と踵を返した彼女が宿屋に向かってずんずん歩き出す。
悠々とその後に続きながら俺は表面上は涼しげな顔を装い続けた────
65人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Kizuna(プロフ) - わあああすみません!!!ご指摘ありがとうございます(>o<") (2017年3月7日 14時) (レス) id: 62524f433b (このIDを非表示/違反報告)
ネムム(プロフ) - オリジナルフラグを外してくださいねー (2017年3月7日 13時) (レス) id: 2bd2d16489 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:Kizuna | 作成日時:2017年3月3日 20時