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東京都。開いた窓から少し蒸し暑い6月の風が入り首を撫でる。大学卒業後入社したのはこの「サイキックオフィス」。psychicつまり心霊。心霊現象や幽霊、超能力その他もろもろを科学的に調査するための事務所。入社するつもりはなかったが、大学で心理学を専攻していた私は気付いたら入社していた。
昨日送られてきた心霊現象に関する雑誌のバックナンバーを整理し、台帳に登録しながら目次を写してインデックスを作っていく。ちみちみとした機械的な作業にうんざりしていると所長室の扉が勢いよく開いた。
「園山さん」
しかめっ面で出てきたのは「サイキックオフィス」の所長である林和樹。高身長であり顔も整っている、それに加え30代前半で事務所の所長ときたら周りがほっとくはずのない優良物件。しかし、研究に没頭し過ぎ周りから引かれているらしい。
「なんですか?」
「これを出版社に届けてほしい」
渡されたのは大きい茶封筒。重さがあることからかなりの枚数の紙が入っていそう。最近所長室から一切出てこないと思ったけど、恐らく今手元にある論文を書いていたからと推測した。
「わかりました。それより所長…身だしなみどうにかしたらどうですか?そんなのだから彼女できても逃げられちゃうんですよ」
天の岩戸から出てきた所長は髪はボサボサ髭も生え、睡眠不足からか目の下に酷い隈ができていた。
「彼氏のいない園山さんには言われたくないな」
むすっとする所長に対し、私と所長じゃベクトルが違うんですよなんてことを言いながら事務所の扉を開けエレベーターのボタンを押す。
ベクトルは違えど彼氏がいないことには変わりはなく、気が付けば恋愛ができない女になっていた。
私は恋を理解できない。付き合っては別れを繰り返す所長も私に告白してくる男性も、あいつの側にいた女の子たちも。
結局最後には傷つくことはわかっているのに、一生懸命誰かに恋をし想うのだろう。
私にはわからない。
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れーと - こういうお話大好きです。最後まで頑張ってください。 (12月10日 16時) (レス) @page13 id: 18437b55a7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:黒猫 | 作成日時:2023年8月24日 14時