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教室を出ると既にジェシー先生は話を終えていたようで、廊下で待っていた。
「保健室戻ろうか」
「はい」
手は繋がなかったけど、歩幅を狭めて同じペースで歩いてくれるのが何となく安心した。
「あれ、大我。いつから来てたの」
保健室の扉を開けると中には先客がいた。
先客はソファに浅く腰掛け、足をフラフラと遊ばせながらじっとジェシー先生を見つめている。
「ちょっとまえ…うしろだれ？」
綺麗な大人びた表情に似つかわしくない、幼子のような話し方だった。
「さっきって北斗くんの前？後？あ、後ろは北斗くんね。同じクラスの転校生の子だよ〜」
「ほくと」
「そう、北斗くん」
「なんでてぶくろしてるの〜？」
てくてく、なんて擬音が付きそうな歩き方でこっちへやってきた大我、と呼ばれる彼は、そう言っていきなり俺の手を掴んできた。
「えっ、」
「ちょっと！大我ダメだよ」
「なんで〜？」
びっくりして思わず手を振り払ってしまったが、彼はそれでも諦めずに手を触ってこようとするので、慌ててジェシー先生が引き剥がした。
「なんでって…」
白い手袋を付けた自分の手を見つめる。
手袋を付けているのは手荒れが酷いから。手荒れが酷いのは必要以上に手洗いをしてしまうから。必要以上に手洗いをしてしまうのは、
頭の中では説明出来ても、口に出して言うことはできなかった。
「答えなくてもいいよ。どうせ答えても忘れるから」
「それはどういう…」
どういう意味、と聞こうとした瞬間、ジェシー先生に抱き抱えられていた彼がいきなり意識を失った。
かと思えばすぐに目を覚ました。
「大我〜？大我おはよう。ここ保健室ね」
「……また？」
「そうね」
「なんかやらかした？」
「あー、どうだろう」
さっきまで5歳児のような話し方をしていた彼は、今普通に話している。
状況が掴めずに置いてけぼりにされた俺は、その場で立ち尽くしていたが、ジェシー先生がこちらを振り返ってくるので、それにつられた彼も俺と目を合わした。
「ごめん。俺さっきなんて言ってた？」
「あ、えと、手袋、なんでしてるのか…って、」
「そっか。聞かれたくない感じのやつだったかな。もしそうだったらごめん」
「いや、いいです…」
「北斗くんごめんね〜大我もわざとじゃないから。あ、この子京本大我ね。同じクラスの」
あの椅子を倒したのはきっと彼だ。
憶測で人を決めるのは失礼だと分かっていたけど、彼は二重人格なんだろうか。今の俺にはそれしか考えられなかった。
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作者名：とほほ〜 | 作成日時：2023年5月8日 1時
