手を翳しても見える星 (ページ12)

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「俺ん家、ここ」
「でか…」

目の前に広がるのは広大な土地を存分に使った大きな日本家屋。
通院の際に何度も見かけてはいたが、実際に正面から対峙すると、その迫力に気圧された。

「ここで手洗って」
「う、うん」

促されるまま洗面所まで辿り着いたが、その洗面所もおばあちゃん家の洗面所の3倍くらいの広さがあって、きょろきょろと見回してしまう。

ざぱざぱと水を出し、きっちりと手を洗う。周りに置かれているいかにも高級そうなタオルやフレグランスの中で、ハンドソープだけが見覚えのある病院に置かれているようなものだった。

「あ、」
「ん？どしたん」
「いや、なんでもない」

癖でつい5プッシュもしてしまったけれど、京本はそこまで気にしていない様子だった。

「…俺も手洗っていい？」
「え？ああ、ごめん」

体感では30秒程だったが、時計を見ると3分経っていた。慌てて真っ赤になった手をぶんぶんと振って水を切り、ふかふかのタオルを借りて手を拭いた。
すぐに手を洗い終えた京本が心配そうに俺の手元を見つめていて、やらかした、と思った。

「ここが俺の部屋ね」

2階に上がって突き当たりまで歩いた右側のドアが京本の部屋らしい。外観は日本家屋そのものであったが、反して中は洋風で、今歩いている廊下もフローリングが広がっている。

友達の部屋に上がる、という経験が初めての俺は物語でしか存在しないと思っていたイベントにドキドキしていた。

「はい、どうぞ」
「…え、」

京本がドアを開いた瞬間、さっきまでのドキドキは消え、さらには困惑してしまった。

京本の部屋は当たり前にものすごく広かった。しかし、その衝撃を上回ったのがその部屋の散らかり具合。
ただ部屋が汚いだとか、そういう話ではない。

「京本の部屋って、」
「ああ、散らかってるでしょ？片付けてもすぐにこうなるからもう諦めてんだよね」

そう言って京本は床に散乱したクレヨンとスケッチブックを隅に移動させてからクッションを置き、俺に「ここ座りな」と手招きした。

京本の部屋は空き巣にでも入られたかのような荒れ方をしていた。棚は全てが微妙に開けられたままだし、本来なら本棚に仕舞われていたのであろうマンガ達は巻数がバラバラになっていたり、床の至る所に落ちていたりする。
埃を被っているわけではないので頻繁に動かされているのだろうか。

こんな部屋になった原因は容易に想像がついたので俺は何も言わず、大人しく用意されたクッションに腰を下ろした。