08. ページ8
k『モノをね。つくってる……って言えばかっこいいかな(笑)』
いつも床に散らばっている、無数の紙と、画材みたいな……あたしには、よく解らないけど。
それが気になって、聞いてみると。
珍しく、彼が話してくれた。
k『こう見えて、昔はね。
作品に出たりもしたのよ？(笑)』
「映画、とかですか？」
k『うん。舞台とか、まぁ、いろいろ。
過去のコトだけどね(笑)』
みたい。と思った。
彼が、どんな風に台詞を話して。
どんな風に動くのか。
「みたかったな、」
k『え？』
「あ、いえ。みてみたかったな。と思って」
ふん。って鼻で笑うと、
k『そう思ってくれて、ありがと。』
って。
眼を赤くした。
「もうひとつ。聞いてもいいですか？」
k『ん？』
「この部屋も、二宮さんも。
甘い匂いがします」
k『ごめん。嫌だった？』
「違うんです。何の匂いかな、って。
いつも考えるんですけど、」
よっ。って小さく言うと、立ち上がって。
ぺたぺたと、奥の部屋に入った。
彼が無造作に置いた紙には、たくさんの文字と。
何かのイラストが、描かれていた。
k『コレ、』
大きくはない手のひらに乗せていたのは、お香だった。
クリーム色の、細長い箱。
それを、差し出した。
「え？」
k『あげる。嫌いじゃなかったら、だけど。』
「………ありがとう」
立った時と同じように、よっ。って小さく言うと。目の前に腰をおろした。
k『好きな人が、好きだったの。
この部屋にも、染み込んだんじゃないかな(笑)それくらい、ずっとついてた。』
ー好きだったのー
その言葉に、とくん。と脈がとんだ。
無意識なのか意図してなのか。
彼が使った、過去になる表現。
もしかすると、好きだった。人は。
彼の近くには、もういないのかもしれない。
k『捨てられなくて。』
「………、」
k『いい歳して、可笑しいよね(笑)
あの人が。かえってくるはずもないのに。』
同じ。
なのかもしれない。
彼と、あたしは。
同じなのかもしれない。
「………遠くへ？」
顔を上げた彼の、薄い茶色が。
ゆらゆらと揺れて。
k『ん。すごくね。』
ごまかす様に、笑ってみせると、
ずっと、握りしめていた手を
こっちに伸ばした
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作者名：とあ | 作成日時：2019年5月7日 19時
