06. ページ6
k『コレ。』
いつものように、珈琲を飲んでいると。
封筒を渡された。
受け取って中をのぞくと、お札が数枚。
「……なんですか？」
持っていた鉛筆をくるくると回しながら、
k『アナタの時給知らないから。足りない？』
や、そうじゃなくて。
「受け取れません」
k『うん。でもさ。
一緒に居てって頼んだのは俺。
恋人とか家族ではないアナタの時間を、俺が使ってるんだから。この方法が1番正しいと思うんだ。』
穏やかな口調とは反対の、強い視線に。
返す言葉がみつからなかった。
「あの……いつまでココに？」
週に2日か3日。
彼のいる空間に、居るだけ。
私は、彼に。
何を与えられているのか。
全く解らない。
k『アナタが。来たくないと思うまで。
ココに居るコトが苦痛でなければ、だけど。』
「………解りました」
k『ねえ。本を読んでほしいんだけど。』
そう言うと、散らかったリビングの奥の、
ドアを開けた。
途端、部屋の空気が変わって。
彼が纏っている、甘い匂いが。
強くなった。
部屋の奥から戻ってくると、1冊の絵本を差し出す。
「読めばいいの？」
k『うん。あと、できればでいいんだけど。
膝、貸してもらってい？』
少し、照れくさそうに。
鼻に指で触れながら、私を見る。
「どうぞ」
よっ。って言うと、隣に腰をおろして。
ころん。と、膝に頭をのせた。
「見えます？」
k『うん。見えなくていいの。
それもう、暗記しちゃってるから。』
ページを開くと、ゆっくり。
なるべく間違えないように。
よけいな抑揚はつけずに、声を出す。
だけど。
膝に乗った彼の頭が気になるし、
ひらがなばかりの文が、少し厄介だった。
柔らかそうな髪に、
手を伸ばしそうになる。
大きくはない、形のいい耳に、
触れたくなってしまう。
透きとおるような、白い頬を。
撫でたいと思ってしまう。
k『もっと。』
「え？」
k『アナタの声が。ほしい。』
そう言った彼が、
私の膝の上で。
涙を流した
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作者名：とあ | 作成日時：2019年5月7日 19時
